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「ぱーぱ、あれがいい!」
ぱたぱたと、今にも転んでしまいそうだと心配でたまらないほどはしゃいだ様子で由紀が走って「くじびき」と赤文字で書かれた屋台を指さして頬を上気させている。
「分かった分かった。ほら、三百円。おじさんに渡したら遊べるから、渡してごらん?」
「うん!」
由紀が、ぐぅっと背伸びして硬貨を3枚差し出そうとした手を、くじびき担当をしている佐藤さんがにこっと笑って取り、3枚の硬貨を受け取ってくれる。
「ほら由紀ちゃん。ここから一枚引いてみぃ」
机の上に置かれた、赤と黄色の派手なボール紙の箱を佐藤さんは由紀のちょうどいい高さに合わせて差し出す。由紀はわかったー!、と笑顔で手を突っ込んだ。言われたとおりに一つ、紙切れを取り出している。
「お、取れたな。開けてみ」
由紀は少々苦戦しながらも、なんとかぺりぺり、と景気のいい剥がれる音を立てて、くじを開けたようだ。
「なんて書いてあるか読めるか?」
「じゅう、さん! 13だって!」
正解だと言われて嬉しそうにする由紀の姿を見て、不意に最近、早紀と一緒に数字の書かれた絵本で読む練習をしていたな、と思い出す。子供の成長を思わぬところで感じて、胸がほっこりとあったかくなった。
「じゃあ、これだな。はい」
「わぁ、ぬりえだー! みてみて、まま、ぱぱ、ぬりえだよ!」
貰ったキャラクターものの塗り絵の本を一冊、大事そうに両手で抱えてはい、と見せてくれる。
「よかったな、家帰ってからお絵かきしようか」
「うん、するー!」
由紀は塗り絵を俺に預けてから再びぱたぱたと小走りで歩き出す。
「まさくん、連れてきてよかったね」
お腹の大きくなっている早紀が、ゆったりと隣の方に歩いてくる。体に負担をかけないために今まで後ろからゆったり歩いてついてきていたのだが、隣を歩くことにしたらしい。
「そうだな。由紀が楽しそうで本当に良かった。――ただ、体調は大丈夫なのか? さっきから歩きづめだし……」
「大丈夫だって、まだ予定日まで2ヶ月だよ? つわりも今のところそこまでひどくないし、これくらいへーきへーき!」
にこっと、学生時代から変わらない元気な笑顔を俺に向けて、からかうような楽しげな表情で、まさくんは心配性だなぁ〜、と頬をつついてくる。この様子なら倒れたりすることはなさそうだし、まぁ本当に大丈夫なんだろう。
「ままー、ぱぱー、まだぁー?」
「ああ、今いくよ」
そう言ったとき、ふと、薄桃色の花びらが一枚、目の前を横切った。
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