言い伝えと桜

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「あれ、は、なんだったんですか」 気づいたときには、家の自室の布団の中だった。ただ、いつもと違うのは、隣に早紀がいなくて、あと枕元に彼女の祖母がいたということ。僕は目覚めた瞬間、飛び起きて、干からびて張り付いたような、かすれた声で彼女にたどたどしくそう尋ねた。 「桜。――先人が封印したと言われている、呪いの桜じゃ。人を喰い、命をつなぐと言われるもの。幻で人を惑わし、人を喰らう。だいぶ、最近はああして離すことで被害も減った。こうして今でもたまに、喰らわれてしまうものはいるがな。……詳しく、話しておけばよかったな。余所者に話して、不用意に近づいて、亡くなることがないように、と思ったのじゃが、な…… 裏目に出てしまうとは……」 「そ、んな。じゃ、あ。早紀は――」 「……亡くなったさ」 ――ああ、俺のせいだ。幻に、俺がかかったせいだ。由紀も、二人目の子供も。亡くしてしまった。  押しつぶされそうなほどの、罪悪感に、胸が苦しくて、音もなく、一筋涙が零れた。 「……さいわい、由紀だけは、無事だ。どうする、由紀を連れて、この村を出るか?」 彼女は、東京に戻ってもいいぞ、とそう、嗚咽を漏らす俺の背を擦りながら、優しい、温かい声音でそう言ってくれる。お前のせいじゃない、自分を責めるな、そう慰めてくれる。 「……っ、俺は―――」
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