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「……そうか、東京から。これからよろしくな。分からないことがあったらいつでも聞いてくれ」
栗色の髪の、好青年。優しげなほほ笑みを浮かべて、由紀の隣に座る彼を見て思わず笑みが溢れる。……もう、この子もこんな年になったのか。
「はい! よろしくお願いします、お義父さん!」
「あぁ、そうだ。ひとつ、言っておこう」
「なんですか?」
「桜にだけは、近づくんじゃないぞ。これだけは、絶対に守るように」
彼は不思議そうに首を傾げている。けれどすぐに、分かりました、と神妙そうに頷いた。
――あぁどうか、この青年と、由紀は、俺達と同じ道を歩まないでほしい。幸せに、生きてほしい。もう、誰も、「あれ」の犠牲になることがないように、俺は心のなかでそっと祈った。「あれ」のことを伝えて、「あれ」のことを皆が嫌い、憎み、忘れないようにする。これが、俺のせいで亡くなってしまった彼女と子供への、せめてもの贖罪だ。
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