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「 ひなた、良かったね 」
「 ごめん、心配かけて 」
そして、初出勤の日。
おれは家族に見送られて、何度も見ていた光景の中に飛び込んだ。
新調されたスーツに、もう咲いてはいない桜の木。
ドキドキと脈打つ心臓が、嬉しさと、自分にできるのだろうかと言う不安を教える。
そして、その光景にもう1人。
「 …ひなた、悪かった 」
頭を下げて、深く深く謝る山並流の姿。
「 …良いから。もう。人、見てるから 」
20年振りに見る流に、あの時が蘇り怖いと思ってしまうが、あの幼さは消えていて、凛とした大人の表情に変わっていた流は、何度も何度も謝り続ける。
「 俺、許してもらえるなんて思ってない。だけど、本当に、ごめんな、ひなた 」
本当は親友だった。
仲の良かった頃の記憶もある。
だけど俺は、複雑な気持ちで、その横を通り過ぎた。
許す、許さないなんてそんな気持ちはとうに無くした。
今はもう、忘れたい。
前に進むために。
「 流、もう来なくて良いから。…元気でね」
ただ一言、背中越しにそう伝えれば、聞こえてくる涙を啜る音。
そして、来た電車に乗り、ホームで泣く流の後ろ姿を電車が通り過ぎていく。
俺は少しだけでも、この電車のように、前に進めたのだろうか。
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