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爽平が顔を上げ郁に近づく。動けない郁にそのままキスをして、抱き締める。キスは徐々に深くなり、爽平の手が郁の胸に触れた。シャツ越しにまさぐられ郁がその手を掴む。
唇を離した爽平が真剣な目を向けた。熱のこもったその視線に抗えず、郁が手を離す。すると爽平は郁のシャツのボタンを開け、素肌に触れた。
「んっ……」
他人に触られるのは久しぶりでいつもよりも大袈裟に反応してしまう。それが恥ずかしくて郁は爽平から顔を背けた。それでもそんなことは気にしていないようで、爽平の手は止まらない。胸の先の柔らかな部分に指を滑らせ、優しく先に触れる。
「宮東さん」
少し低い乾いた声が耳元に響く。緊張しているとわかるその声に、郁は可愛いと思ってしまった。ここで拒まなければいけないのに、爽平を突き放すことが出来ない。
「宮東さんの小さな胸、俺は可愛いと思います」
その言葉に郁は驚いて爽平を見つめた。そんなこと言うのは爽平で二人目だ。最初の一人は、初めて付き合った、こんな性癖を置いて行った人だ。
「そんな、こと……」
「あります。だから、今は俺に愛でさせてください」
両手で郁の胸に触れて、指先で先端を優しく摘まむ。びくりと肌が震えた。
「愛でるって……こんな……」
指先で捏ねるように両の乳首を愛撫され、郁はその刺激に震える。そんな郁の腰に片腕を廻した爽平は、そのまま郁の体を引き寄せた。爽平の顔が近くなり、郁の鼓動が跳ねる。
「好きです、宮東さん」
爽平は真剣な目でこちらを見つめ、そのままキスをする。食むように唇を合わせ、舌を吸いあげられると、その心地良さに頭の中が白くなっていく。胸をまさぐる手も止まっていなくて、同時に刺激されて郁の中心は既に上を向いて、パンツの中で窮屈になっていた。
「んっ、た、かせ……だ、め……」
「だめって顔してないです。可愛い」
爽平は優しい目を向けると、今度は耳にキスをした。そのまま首に強く吸い付き、シャツを開いて鎖骨にキスをする。
「胸にキス、してもいいですか?」
「よ、くな、い」
そんなことされたら達してしまうかもしれない。後輩の手でいくなんて恥ずかしすぎる。
「でも、こっちは舐めてって、可愛らしく主張してますよ」
すっかり尖っている乳首を指で弾かれ、郁が声をあげる。それを聞いた爽平が、やっぱり無理、と小さく呟いて、郁の胸に吸い付いた。唇で吸い上げられ、舌で舐められるとそれだけで全身に快感が走る。
「やっ、だめっ、いっちゃ、う、から」
郁は両手で爽平の頭を引きはがそうとするが、上手くいかず、結局爽平にされるがままになる。
「いっていいですよ」
胸にキスをしながら爽平がこちらを見上げる。目が合うとそれだけでドキドキしてしまって郁は唇を噛んで目を逸らした。
その途端、爽平が愛撫していた手を速める。指を擦り合わせるように両方の先端を刺激され郁は、それに驚いて視線を戻した。
そこに笑顔の爽平がいた。
「やっぱり可愛い……このままいってください、宮東さん」
爽平が再びキスをする。胸とキスの心地良さに、郁はすっかり溶かされ、ゆっくりと爽平の背中に腕を廻した。
「もっ、い、く……!」
ぎゅっと爽平の背中を抱きしめ、絶頂へと達した郁は、荒い息をしながら爽平の肩に顔を埋めた。
こんなはずじゃなかった。
会社の同僚、しかも自分に憧れてくれている後輩にこんなことをさせてしまって、しかも自分ばかりが気持ちよくなってしまって、最悪だと思った。
「宮東さん、だいじょ……」
「帰る!」
郁を気遣う爽平の腕を振り解いて立ち上がった郁は、上着とカバンを抱え、そのまま爽平の部屋を後にした。マンションのエレベーターに乗り込み開いたままだったシャツのボタンを留め、大きくため息を吐く。
「最悪……」
エレベーターの壁に、こつん、と頭を付け呟く。
いくら久しぶりだったからとはいえ、他人の手が心地よかったからとはいえ、拒み切れなかった自分が情けない。そもそも行き先が爽平の家だと分かった時にどうして自分は引き返せなかったのか。
郁は上着を着こみ、壁から離れた。エントランスに着いたエレベーターから降りるとそのままマンションを出る。振り返り見上げた部屋の灯りに、嬉しかったんだな、と思った。
好きだと言われたことが。肩を並べて誰かと他愛もない話をすることが。
もう何年も経験がなくて、懐かしかったのだろう。
「きっと、それだけだ」
郁は自分の言葉に自分で頷き、再び歩き出した。
爽平が郁を追って来ることはなかった。
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