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「検討後、連絡させてもらいます」  いつもプレゼンに行くと貰う言葉を岩薙の上司という男から貰い、郁は頭を下げた。会議室を出ていく姿を見送り、郁も自分用の資料をカバンに戻す。早くここから立ち去ろうと思っていると、そこに、郁だろ? と声が掛かった。 「髪型も違うし眼鏡だから初めは分からなかったけど……郁、だよな?」  こちらに近づいてきたのは統括だ。その様子に驚いたのは岩薙も同じだった。 「尾塚統括、お知合い、ですか?」 「あ、知り合いというか……テルだ。分からないか?」  近づく男の顔をもう一度見る。なんとなく思いだしたのは、自分と天井の間で興奮した顔だった。数か月くらい付き合ったセフレに、そんな人が居たかもしれない。 「……ごめんなさい。人違いだと思います」  郁は関わるのが面倒で穏やかに返すと、そのままカバンを手にし、頭を下げてから会議室を出た。その後を二人が付いてくる。 「宮東さん、もしよかったら、これ貰ってください」  追いかけて来た岩薙が自身の名刺を郁に差し出す。それに郁は首を傾げた。 「名刺なら先ほど……」  そこまで言いかけて、名刺の真ん中に十一桁の番号が大きく書かれていることに気付く。 「えっと……」 「不躾ですみません。でも、こんなにキレイな人に会えることなんて、滅多にないから……またこちらからもメールします」  岩薙が郁に名刺を握らせ微笑む。郁は仕方なくそれを受け取り苦く笑ってから、よろしくおねがいします、と仕方なく頭を下げた。 「岩薙、今何渡した?」  その様子を見ていた尾塚が低い声で聞く。岩薙は、名刺ですよ、と飄々と答える。 「だったら私も渡しておこう。君のも貰えるか?」 「……はい。改めまして、宮東です」  郁は仕方なく尾塚に名刺を渡した。代わりに尾塚のものを受け取る。 「困ったら連絡してくれたらいい」  尾塚は郁の背中に少しだけ触れてから離れていった。 「わ、私にも、連絡待ってます」  岩薙が慌てた様子で頭を下げる。郁はそれに小さく息を吐いてから、失礼します、と頭を下げ、その場を後にした。 「……なんだ? 今日は……いつもと同じはずなんだけど……」  平日と週末の郁は同一人物と思われない。それは自分でも自信があって、だからこそ堂々とゲイバーに行くし、パブで働くことも躊躇がなかった。けれど今日、尾塚にバレてしまったし、平日の郁なんて魅力もないのに、岩薙に番号を渡されてしまった。  考えてもよく分からなくて、結局郁は考えることを止め、次の営業先へと向かって歩き出した。
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