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   その週の土曜日は、あいにくの雨だった。  約束の午後一時、待ち合わせ場所は駅ナカにあるコーヒーショップだ。店に着いた郁は、店のアドレスに到着したメールを送ってから、コーヒーショップの中へと入った。店内を見渡すと、すぐに奥の席でスマホを片手に座る啓吾を見つけた。 「お待たせしました、啓吾さん」  傍に寄ると、啓吾がこちらを見上げる。それから表情を優しく変える。 「ミヤ、私服も可愛いね」  今日はオーバーサイズのパーカーと細身のパンツを身に付けている。さほど可愛らしいものではないが、店の印象とは大分違うかもしれない。 「ありがとう、ございます。啓吾さんも休日仕様ですね」  Tシャツの上に柔らかな綿のジャケットと同色のパンツを履いた啓吾は、いつものスーツと違って柔らかい雰囲気だ。髪も下ろしてくれている。 「ミヤとデートだからね、少しは張り切ってるよ」  そう言って立ち上がった啓吾はそっと郁の耳に触れた。それに驚いて目を瞑っている内に、耳に何かを付けられた。 「まずは、来てくれたお礼に。やっぱり似合うよ」  啓吾が自身のスマホを操作してカメラを起動させる。インカメラになっているその画面を見せられ、郁は自身の耳にイヤーカフが付いていることに気付いた。ピンクの石が付いた、金色のものだ。 「え、くれるんですか? 高そうなのに」 「全然。ここに来る途中に見つけたものだから。何か、自分のあげたものを身に付けたミヤを連れて歩きたくて」  アレルギーとかはない? と聞かれ、郁が頷く。 「ありがとうございます……大事にしますね」 「明日私と別れた後なら売ってもいいよ。そうしたらまた買ってあげるから」  啓吾が笑いながら歩き出す。郁はそれに付いていきながら、売りませんよ、と笑った。 「いや、それがミヤの助けになるなら、何でも買ってあげるから、いくらでも売りなさい」  啓吾は郁が風俗に居るのは、お金の為だと思っている。訂正するメリットもないのでそのままでいるが、なんだか胸が痛い。  郁は耳に付いているイヤーカフに触れ、せめてこれはちゃんと大事にしようと思った。 「啓吾さん、行きたいところはありますか?」 「そうだなあ……ミヤと一緒ならどこでもいいんだけど、ミヤは行きたいところある?」  聞き返され、郁は少し首を傾げた。昨夜、スマホで色々と調べてみた中で、雨でも楽しめそうなところをいくつか思い出す。 「美術館、とか?」 「へえ……そういうの好きなんだ」 「というか、啓吾さんと行くなら、そういう落ち着いた場所がいいかな、と」  僕も騒がしいのはあまり得意じゃないですし、と郁が微笑むと啓吾が優しい表情で郁の手を握った。 「じゃあ行こうか」  啓吾の言葉に郁は頷いた。
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