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放課後、ミリカは古びたドラッグストアに立ち寄った。
歩いていける距離でメイク用品を売っている店はここだけだ。
蛍光灯の暗く、商品の配列も機械的な店ではあったが、
驚くことに、リプココの全色がずらりとそろっている。
セリナたちの会話を思い出しながら、
リプココの限定の新色リップの試供品をとり、手の甲にぬる。
ネットでみた以上に発色がよく、鮮やかな深紅色をしている。
都内ではまず手に入らない。
意外と田舎の方が、品ぞろえがいいなんて皮肉な話だ。
東京ではなんでもそろっているなんて思っていたけれど。
もうそろそろ梅雨が来る。
ミリカは基本マスクをしていたけれど、
さすがにそろそろ蒸し暑いから、マスクも外したい。
この深紅のリップをしていったら、さすがに先生には怒られるだろう。
桜色のリップと違って明らかに「メイクしてます」の顔になる。
以前のミリカなら一線を越えることは絶対にしなかった。
敵をつくらないのがミリカである。
桜色でとどめておけば、
人に迷惑をかけることもなく静かに過ごしていけるだろう。
そのうちここで友だちだって作れるかもしれない。
でもそんなのはどうでもいいことだ。
桜色のネイルも帰ったら落として、ラメの入ったゴールドに塗り替えよう。
そう思って固く右手を握る。
ミリカはもう気づいてしまった。
桜色じゃテンションは上がらないし、
ここはわたしの居場所じゃない。
ミリカは深紅のリプココを手に取ると、背筋をのばしてレジにむかった。
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