サクラ色のミリカ

3/7
前へ
/7ページ
次へ
体育の時間。今日からバレーボールの授業らしい。 「レシーブ練習するからペアになってー」 先生の声に反応して、女子たちがくっつきだす。 当然、ミリカに声をかける子などいやしない。 ミリカは注意深く女子たちの動きを見極める。 いつも三人組で動いている吹奏楽部の子たちの一人、たしか咲とかいう名前の女子の肩をたたく。 ひとりになっても、受け身でいるのは性に合わない。取り残されて先生に声をかけられるのは絶対に嫌だった。 「わたしとペアにならない?」 二十センチ以上背の高いミリカから声をかけられた咲は肩をびくっとふるわせた。 「じゃあわたしたちは二人でやるね」 吹奏楽のふたりのうちの一人である葉月はそう言って、あっさりと咲から離れていく。 ミリカは咲をまじまじと見つめた。 体育の時間はマスクを外しているのでクラスメイトの顔を見る貴重な機会だ。 この学校の女子たちは、セリナたちのような華やかさがなく、おしゃれに無頓着に見えていたが、そうでもないらしい。 よくよく見れば、咲は桜色のリップをつけているし、ネイルも同様に桜色をしている。 この学校もメイクは禁止のはずだが、これぐらいであれば、お目こぼししてもらえているようだ。 東京で同世代のイケてる女子を見尽くしたミリカの目には、芋っぽく見えてしまうけれど、おしゃれをしようという気持ちは咲たちにもあるらしい。   レシーブ練習が始まり、周囲は「いいね」とか「いたーい」とかおしゃべりしながら練習する中、ミリカたちは黙ってボールをあげる。 運動神経のいいミリカは相手が取りやすい位置に正確にボールを落としていく。 一方の咲は、たまに返したとしてもとんでもない方向に行くので、レシーブはちっとも続かない。 こんなラリーの続かないバレーは楽しくない。 咲の桜色のネイルが光できらりと反射するのが目につく。 ミリカはトスを高く上げて、咲に思いっきりサーブをかましたい衝動に駆られた。 けれどそんなことをしたら、ミリカが悪者になる。 もしクラスの女子たちが「いじめっ子」であったなら、迷わずサーブを打ち込んだだろう。 けれど、彼女たちは「悪」ではなかった。 ただただ、自分たちのコミュニティが出来上がっているところに、ミリカをいれる必要がないだけなのだ。 すらりとした長身のミリカをいじめようなんて胆力のある子なんてここにはいない。 向かうところ敵なしであることは以前から変わっていない。 味方がいなくなっただけだ。 ミリカはくちびるを固く結びながら、レシーブを続けた。  
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加