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え、部屋をまちがえた?一瞬訳がわからなかった。
浩二はあわてた様子もなく
「今から出かけるから」
と言う。
「この人、誰?」
と女が浩二に聞いた。
「これは妹。じゃあ行ってくる」
私は、妹……?
良子はカラカラになったのどを潤そうとただただ水が飲みたかった。
風のない夏の夜だった。
結婚はしたものの今や愛もお金もなくなりつつあった。いや愛は最初からなかったかもしれない。
良子の父は昼間から酒を飲み酔うと母に暴力を振るう酒乱だったので、浩二が下戸だと聞いたとき良子はただその一点だけで結婚を決めたのかもしれなかった。
酒乱のいる実家には戻りたくない。電車賃を払って地獄に戻るくらいなら、妹地獄の方がましだった。
浩二は幼いころから手先が器用で機械いじりも好きだったため、車の整備士になった。彼は腕は良かったが喧嘩っ早く、工場の人間と揉めては辞めるを繰り返していた。
良子の妊娠がわかったのは、そんな時だった。
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