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それは、パーティーが始まってしばらくした頃。
仕事仲間とばったりと会った父を置いて、リネットは壁の花となっていた。
周囲には煌びやかなドレスを身にまとった美しき貴族の娘たちがいる。彼女たちが身に着けるアクセサリーなどは一級品であり、リネットはかなりの場違い感を抱いていた。
確かに、リネットのように下位貴族の令嬢もいるにはいる。だが、皆が皆迫力に押されているのか、壁の花になっている状態だ。
もちろん、中にはそうではない令嬢もいる。が、彼女たちは社交界でも人気が高い者ばかりであり、自分の魅力を存分に理解している者たち。それすなわち、リネットの同類ではない。
(……うわぁ、本当に場違いだわ……)
自身の緑色のドレスを見下ろしながら、リネットはそう零す。
ドレスにはレースがふんだんにあしらわれ、布が何重にも折り重ねられているという割と重たいデザインである。
重たいと言うのは物理的な重量のことであり、実際歩くのも大変なのだ。特に小柄であるリネットは、ヒールの高い靴を履く。正直、いつ転んでもおかしくないと思っていた。
そんなことを考えていると、不意にホールの中央の扉が開いた。
そちらに視線を向ければ、そこにいるのは――この国の王妃キャロライン・ウィバリー。
彼女は四十代には見えないほど若々しい容姿をしており、その頭上には女性の王族の証であるティアラが輝いている。
「皆さま、本日は我が息子のために集まってくださり、誠に感謝しておりますわ。どうぞ、お楽しみくださいませ」
鈴のなるようなきれいな声で、キャロラインがそう宣言すれば、会場内からぱちぱちという拍手が聞こえてきた。
もちろん、リネットも浮かないようにと合わせて拍手をする。
キャロラインはゆっくりと中央の階段を下りていく。その姿はさすがの一言で言い表せそうなほど、きれいだ。洗礼された無駄のない動き。背筋はしっかりと正しており、ヒールの高さをものともしない。
……まるで王族の女性の手本のような人物だった。
(……レックス殿下の妻になるお方も、あんな風にきっちりとされたお方なのよね)
キャロラインに見惚れながら、リネットはそう思ってしまった。
……やはり、少なくとも自分ではないな。
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