307人が本棚に入れています
本棚に追加
その後、リネットは準備を済ませ、アシュベリー家が所有する馬車に乗り込んだ。
アシュベリー家の屋敷から王城までは馬車で四十分程度。
貴族の屋敷は王城をぐるりと取り囲むように建っており、王城に近い場所に屋敷を構えているほど身分が尊いとされていた。
当然、子爵家であるアシュベリー家の屋敷は王城から遠い立地に建っている。
「リネット。今日も大層可愛らしいね」
リネットの目の前に腰掛ける父――アシュベリー子爵がにっこりと笑ってそう声をかけてくる。
対するリネットは彼のことを一瞥し、心の中で「親ばか」と言っておいた。
「まぁ、お父様、ありがとうございます」
けれど、出来る限りにこやかな笑みを浮かべてそう礼を告げることは忘れない。
そもそも、父は心の底から思ったことを口に出しているだけなのだ。
貴族の当主の中には娘を政略結婚の駒としか思っていない人間も多い。が、リネットの父は違った。娘であるリネットとミラベルをこれでもかというほど溺愛している。それこそ、目に入れても痛くないと言いたげなほどには。
「しかし、残念だね、リネット。ミラベルも一緒に行けたらよかったのだけれど……」
父が眉を下げてそう言う。
だが、リネットからすれば姉が行ってどうするのだ、と言いたい。
ミラベルには婚約者がいるし、彼との仲は良好だ。王子殿下の婚約者に見初められたとしても、双方の願いは叶わない。
そういうことを減らすために、今回は未婚の貴族令嬢のみが集められたパーティーになっている。ちなみに、エスコート役は父、もしくは兄弟と決められていた。
最初のコメントを投稿しよう!