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1. 佐久楽神社
俺は桜が嫌いだ。
だいたい、日本には四季折々、百花繚乱、色とりどりの花が咲くのに、桜の開花予報にだけあんなに必死になるのはなぜだろうか。
佐久楽神社は、一月後半から三月にかけて気象予報士という名の奴らが殺到する。
「今年こそ、開花予報当たりますように」
「三年連続で的中しますように」
「前後一日のズレは許容範囲なので、なんとか当てさせてください」
佐久楽が桜と同じ音だから、いつの間にか桜の守り神、お詣りすれば開花予報が的中する御利益があることになっていた。
何を思ったのか先代の宮司が、境内の桜の古木に、ある日突然しめ縄を巻いて御神木に仕立てたのが発端だ。
商売上手の今の宮司がそれに乗っかって、御守に桜の刺繍を施し、絵馬に桜のイラストを入れ、ホームページには『サクラッコ』なる桜の花の冠をつけたラッコに似たキャラクターまで登場させて、桜を全面に出して宣伝し始めた。
おかげで千客万来、参拝客倍増、受験時期は『サクラサク』で受験生が集まるようになっていた。
ところが最近では、合格祈願の絵馬よりも、全国各地からやって来る気象予報士が奉納する絵馬の数の方が圧倒的に多い。
しかし、宮司だって知っているはずだ。
桜の開花は神様にだって自由にはできないことを。
あれは自然現象で、その時期の気温の高低に影響されている。
その年に咲く桜のもと、花芽は前の夏にはできていて、すぐに休眠状態になる。それが冬の寒さで目を覚ますのが、休眠打破だ。そして春先からの暖かさで成長して花を咲かせるのだ。
ソメイヨシノの場合は、2月1日から毎日の平均気温を足していき、だいたい400℃を超えた頃に開花する。そんなの俺だって知っている。
もちろん多少のブレはあるもので、そこを工夫と経験でピタリと予想できるかが、気象会社や気象予報士の腕の見せどころとなる。
神社で祈ったからといってどうなるわけでもなく、ひたすら論理的に考えていくしかないのだ。
神様ができることといえば、夢のお告げでアドバイスをするくらいか?
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