6.  凪沙さん

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6.  凪沙さん

 午後になって二日酔いも落ち着いたので、僕は桜の木の観察に出かけた。  佐久楽神社も訪れたが、今日はサクの姿は見えない。僕よりかなり飲んでいたので、サクも二日酔いなのかもしれない。  土曜日で社務所に人がいたので、お詣りしてから絵馬を奉納した。社務所の人は一瞬僕を見てあれ?っという顔をしたが、すぐに真顔に戻った。気付かれてしまったかもしれない。きっと、あんまり当たらないので、とうとう神頼みに来たのかと思われただろう。  絵馬を掛けていると、「佐倉君?」と名前を呼ばれた。振り返ると、凪沙さんが笑顔で立っていた。 「やっぱり、佐倉君も来るんだ」  凪沙さんはくすっと笑う。 「ええ。いい加減、当てないとって」  僕は頭を掻く。  それからなんとなく二人で参道を並んで鳥居の方へ戻る。 「私ね、実は四月から東京に転勤するの。まだ情報解禁になっていないんだけど、全国ネットの情報番組のお天気キャスターに決まったのよ」  凪沙さんが口にしたのは、人気芸能人がコメンテーターとして多数出ている人気の番組だった。社内にも凪沙さん全国区転身の噂は流れていたが、本当なんだと知り僕はショックだった。凪沙さんが手の届かない人になってしまう。 そんな気持ちを隠して、「すごいですね! さすが凪沙さんです。応援してます」と僕は明るく言った。  「佐倉君も、異動の話があるんでしょう? ごめんね。島村課長から聞いたの。というか、佐倉君も一緒に東京に行くよう、説得を頼まれた」  そうか、凪沙さんは知ってるんだ。僕はどう答えたらいいか困っていた。
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