8. 開花予報

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8. 開花予報

 週明けには各局、開花予報を出すという日曜の夜。僕は夢を見た。サッカーボールを持って、佐久楽神社にサクを探しに行く夢だ。  鳥居をくぐり歩いていくと、袴姿の少年サクが待っていてくれた。サクは僕に気づくと、にやっと笑って近づいてきた。と思ったら、どんどん姿が変わって大人のサクになり、僕の胸ぐらをつかむと顔を覗き込んでこう怒鳴った。 「いいか。神様ってのはな、頼りにしてくれなきゃ助けられねえんだ。お詣りに来てる人間を助けずに、昔馴染みってだけでお詣りにも来ねえお前を助けるわけにはいかねえんだ。わかるか?」 「う、うん」 「言っておくが、お前の悪いところは独りで考えすぎるところだ。思ったらスパッとそれで行け。変にひねくり回すのがだめなんだ。いいな!」 「う、うん。わかった」  そう返事をして、目が覚めた。変な夢だった。  でも、あの居酒屋で、サクに言われたことを思い出した。 ーー考えすぎるな。思ったらスパッと行け。変にひねくり回すなーー  僕はその日の番組で、開花予報を出した。あとで知ったが、凪沙さんとは一日違い、僕の方が一日遅かった。  サクはなぜわかってたのだろう? そう、考えすぎるのが悪い癖なのだ。  僕はこの街ではある程度、顔が知られているので、桜の季節が近づくといろいろな人に声をかけられる。 「孫の入学式には桜満開かねえ?」 「お花見弁当の売り出し日、桜咲いてる?」 「今年、開花早そうだけど、商工会の桜祭りまでなんとか桜もたないかね?」  最初は開花予報は防災とは関係ないと、高を括っていた。けれども皆にとって、桜の開花がどんなに大切なことかってわかるにつれて、考えすぎるようになってしまっていたんだ。  それをサクの一喝で僕は気づいた。  東京転勤だってそうだ。家族に相談もせずに、一人で悩んでいた。  母と兄に転勤の打診を相談したら、東京行きを賛成してくれた。兄は家にもよく遊びに来る幼馴染みの彼女と結婚を決めたそうで、「母さんのことは心配するな」と言ってくれた。母は、「あの飯島さんに誘われて全国放送に出るなんて、夢のようだね」と喜んでくれた。    僕は島村課長に、転勤を受けると返事をした。課長と、すぐ近くにいた凪沙さんも、すごく喜んでくれた。
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