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 ピンポーン。インターホンが鳴って玄関を開けると、そこには母が立っていた。 「どうしたの突然」 「いや、特に用事があったわけじゃないんだけど……。買い物の帰りにちょっと寄ったの」 「そうなの」 「どう?一人暮らし?もう慣れた?」 「まぁ、慣れたよ」 「ご飯もちゃんと作ってるの?」 「うん。ちゃんと自炊してるよ」  そんな話をしながら、二人は部屋の中へと入った。  ソファに腰掛ける母の傍らには、さきほど買ってきたであろう買い物袋があった。 「何か飲む?」 「うん」 「紅茶でいい?」 「ありがとう」  私は紅茶の準備をした。お湯を沸かし、紅茶のティーパックをカップに入れた。 「そういえば、今日、たまご安かったのよ。最近、たまご高いし一パック買っとこうと思って買ったんだけどね……」 「うん……」 「そうしたらね、お父さんから電話があって、お父さんもたまご買ったって言うのよ」 「へえ、そうなの」 「お母さん、あまりのショックに買ったものを落としちゃったのよ。幸い、たまごも完全に割れたものはなかったからよかったけど……」 「何やってんのよ。そんなにショックなことでもないじゃない。そんなことよくあることでしょ」 「そんなことないわよ。一パック、十個も入ってるのよ。それが二パックになったら二十個よ。あんたも一人暮らし始めて、お父さんと二人でたまご二十個も使い切れないわよ。賞味期限だってそんなに長くないじゃない」 「まぁ、そうかもしれないけど……」 「そうでしょ」 「それにしても、落とすほどではないと思うけどね」 「落としちゃったんだから、仕方ないじゃないの」 「まぁ、割れなくてよかったんじゃない」 「そうね」 「でも、たまご安かったのなら、私も買いに行こかな」そう言いながら私は沸いたお湯をカップに注ぎ「はい」と言って母の前に紅茶を置いた。 「ありがとう」 「私、ちょっと洗濯物取り込んでくるから」そう言って私は洗濯物を取り込みにベランダへと出た。 洗濯物を取り込んで部屋の中へと戻った。 「ちゃんと洗濯も自分でして偉いわね」母が言った。 「そりゃ、するわよ。一人なんだから」 「一人暮らしも大変でしょ」 「まぁ、慣れてきたけど……」  次はそろそろ夕飯の準備か。洗濯物は取り込むだけで、一旦畳まずに冷蔵庫の前に立った。毎日毎日、ご飯を何にするか考えるのもめんどくさい。それでも、極力外食はせずに自炊を頑張ろうと決めていた。  冷蔵庫を開けて何があるか見る。といっても、一人暮らしの冷蔵庫。大したものは入っていない。  あれ?たまごが増えてる?確実に増えている!確実に増えているぞ!!  私は、急いでスマホを手に取り、電話をかけた。   
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