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 ピンポーン。インターホンが鳴って玄関を開けると、そこには一人の女性が立っていた。 「すいません。どうぞ、入ってください」そう言って私はその女性を部屋の中へ入れた。 「えっ、誰?急に何?」母は動揺しているようだった。 「すいません。こういうものです」そう言ってその女性は母に名刺を渡した。 「はぁ」母は不思議そうに名刺を見ている。 「私、たまご探偵の鳥野多真子(とりのたまこ)と言います」 「たまご探偵?」母は言った。 「多真子さんはすごいのよ。この界隈じゃ知らない人はいてないんだから」私は言った。 「どの界隈?」母は言った。 「多真子さんはたまごにまつわる事件なら何でも解決してくれるのよ。多真子さんに解決できない事件はないんだから」 「あなたが呼んだの?」 「そうよ。さっき電話して依頼したの。大事件が起きたから」 「大事件って何よ。私もずっといたけど何も起きてなかったじゃない」母は言った。 「お母さんには言ってなかったけど、大事件が起きてたのよ」 「何よ、大事件って」 「たまごが増えてるの。冷蔵庫の中のたまごが増えてるのよ。これ以上の事件があるっていうの!」 「そんなことが事件なの?」 「事件じゃない!大事件じゃないの!たまごが増えてるのよ!これが事件じゃないって言うなら何だっていうのよ!」 「はぁ。それは……」 母は何かを言おうとした。しかしそれを遮るように鳥野多真子が話し始めた。 「まぁ、そう興奮しないでください。どういった事件かはわかりました。あとは私に任せてください。必ず、事件を解決してみせます」 「ありがとうございます。多真子さんが来てくれて本当によかった。期待してます」私は言った。 「ちょっと、待って。それはね……」  母が何かを言おうとしたが、それをまたもや遮って鳥野多真子が話しを続けた。 「それではまず、事件のいきさつを教えてもらえますか?」 「はい。まずはお母さんが訪ねてきたんです。買い物の帰りに寄ってくれたんです。そして、まぁ、これといったことは……。世間話というか雑談というか……」私は言った。 「どんな話をされたんですか?」 「どんなと言われましても、本当にただの雑談というか……。お母さんはたまごが安かったから買ってきたみたいなんですけど、どうやらお父さんもたまごを買ってたようなんです。それで、それがあまりにもショックだったらしく、お母さんは買い物袋を落としてしまったらしいんです。……みたいな話をしました」 「なるほど。……他にも何かありますか?」 「特筆すべき事は何も……。あとは一人暮らしも大変だねって話したくらいです」 「なるほど。なるほど」鳥野多真子は言った。 「ですから……」  母は何か言いたげだ。しかし、それを制止して鳥野多真子は言った。 「お母さん、わかってます。お母さんの言いたいことは……」 「なんですか?どういうことですか?」私は言った。 「お母さんの言いたいことはですね。娘さんの勘違いなんじゃないかってことが言いたいのですよ」 「どういうことですか?」私は言った。 「非常に言いにくいのですが、実はたまごは増えてないんじゃないかってことです。増えたと勘違いしているだけなんじゃないかと……」 「いや、そうじゃなくって……」母はまだ何か言いたげだ。 「そんなことないですよ!確実に増えてますよ!勘違いなわけないじゃないですか!」 「そうですか。では、たまごは増えているわけですね」 「そうです。絶対に増えてます」 「わかりました。では、冷蔵庫の中を見せてもらいましょう」 「わかりました」そう言って、私は冷蔵庫を開けた。  
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