#3「バキバキ緊張です」

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#3「バキバキ緊張です」

ついにこの日がやってきた。 (うわぁめっちゃ緊張するヤバいどうしよう…!) 携帯を見返す引子。 そこにはとある飲食店からの面接日の確認のメールがあった。 「4/13日の金曜日に○○店にてお待ちしております。 山村」 車掌さんのアナウンスが騒がしい通勤客の声に流される。 (頑張らなきゃ…!) 着いた電車に乗り込んだ引子は、扉近くの席に座った。 人がなだれ込んでくる。 ゆっくりと景色が左に流されていく。 電車の音と人の声を聞きながら、引子は必死に下を向いた。 周囲の嘲る表情や憐れむ顔が見えてくるような気がするからだ。 もう春だというのに冷や汗が止まらない。 その時ふと隣にいる人の手元に目がいった。 少し薄めの本が開いており、紙をめくるきれいな手が見えた。 視線を上げ、顔を見ようとした時。 「うあっ。」 電車が止まる時の揺れで隣の人に寄りかかってしまった。 すみません、と言おうとした時。 「す、すみません!!」 「えっ?」 「本、刺さってないですか?」 「さ、刺さ…ぶつかってはないです。」 変な人、と引子は思った。 先程少し触れられたせいで赤面してはいたが、どんな人か気になったので顔を上げた。 茶色いマッシュとタレ目の若い男性。 特に目は宝石をそのまま埋め込んだかの様な美しさで引子はつい見惚れてしまった。
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