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#4「あぁ〜恋の音ぉ〜!」
「どうかしましたか?」
「えっ」
一瞬電車が止まったかの様に静かに感じたが、我に返った引子は慌てた。
惚れた相手にまさか、「見とれてました。」なんて言える訳がない。
なんと言ったらいいのかわからず口ごもる引子に、隣人(隣に座っていた男性の意)は口を開いた。
「本、貴方のでしたか?」
この人は何を言ってるんだ、と思った。
「もしかして、貴方の持っていた本を勝手に読んでしまったのかと思って…。」
「いや、あの、私本持ってきてないし…」
そう言った途端、茹で上がったかの様に男性は赤面した。
「そ、そうですよね!?そんなことあるわけないですよね!!あ、あははははー…何言ってるんだろ僕…。」
「ははは…そ、そうですね…。」
正直引子の目には変人にしか映らなかったが、どこか憎めなさも感じていた。
「あっ!あの良かったら」
そう言った時だった。
引子の降りる駅に着いてしまう。
「あ、すいませんここで降りますね。」
「あっあのまた会えたら!」
「…はい。」
「本、貸しますね。」
電車が閉まり、ホームから遠のいていく。
引子は不思議な面持ちでそれを見つめていた。
数時間後…ぐったりとした様子で帰ってくる引子の姿があった。
空は黒々とした雲で覆われていた。
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