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#6「可愛くなくてごめん」
眩しいほどの朝日に照らされ、引子は起床した。
冷蔵庫から見覚えのないパンとジャムを取り出し、動画を見ながら食べ始めた。
お手洗いに行き、歯磨きを済ませ、いつものバックを肩にかけ出かけた。
今日は友人との1年振りの再開をするのだ。
正直気が滅入るが、ここで断ってしまえばもう誰も自分の相手をしてくれる人がいなくなってしまうかもしれないと考えると行くしか無かった。
電車に乗り、友人の「着いた」というメッセージを見つめる。
「あの…」
聞き覚えのある声、見覚えのある足元が目に付いた。
咄嗟に顔を上げるとタレ目の彼が笑ってる。
窓が空いていないはずなのに、後ろから風が吹いてきた様な鳥肌を感じた引子は感動を覚えた。
(そうだ、あの時…)
「本…。」
「あっ!そうそう、貸すって約束しましたもんね。」
ゴソゴソ取り出す彼のバックから1冊のノートが滑り落ちた。
「あっ。」
氏名のところは「前田 進司(まえだ しんじ)」とある。
「まえだ、しんじさん…。」
「あっバレちゃいましたか。ははは…。」
「バレたらマズイんですか?」
やっぱり変な人だと思った。
「いや、そういう事じゃないんですけど…あの…。」
耳の裏をかき、照れながらも彼はちらりと引子を見た。
「あなたの名前も良かったら聞いてもいいですか…?」
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