海を見つめる

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海を見つめる

 それからというもの、ただ座る日々が始まった。  海岸近くの民宿に寝泊まりし、何するでもなく、毎日海を見に行った。そこで座り、ただ潮の満ち引きを眺め、同時に自分と向き合った。  民宿に食事はなく、単に寝泊まりするだけの場所だったが、それで十分だった。近くのスーパーで買い物をして、簡単な夕食を作り、食べたいときにはそれを食べ、命を繋いだ。  はじめは(いぶか)し気に見ていた民宿の主も、3日もすれば慣れてきたのか、俺を見なくなった。見られようがそうでなかろうが、俺は構わずに海まで歩いた。  そして、問い続けた。  生きる目的、生きる意味、俺という存在について。  答えなんて出る訳はなかった。ただ、(いま)だに死んでいないこの身に、意味を見出したかった。  波は毎日満ち引きを繰り返した。時に穏やかに、時に激しく。  よほどの大雨の日以外、俺は毎日海へと出向いた。そこでただ座り、陽が沈むまで佇んだ。
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