海を見つめる

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「お兄さん、大丈夫かい?」  海から民宿へ帰る途中、ここに来て初めて声をかけられた。  民宿のおかみさんだ。初日に会った記憶が微かに残っていた。  何をするでもなく、毎日海に行って戻るだけの俺を見て、やはり不思議に思ったのだろう。  その気持ち、よく分かる。それって、不審者以外の何者でもないもんね。 「大丈夫です。いつもお世話になってます」  俺は軽く会釈し、その場を通り過ぎようとした。 「なんか思い詰めた顔してたからさ。心配してたんだよ。でも今日は違うね。なんかいいことあった?」  おかみさんは愛嬌満点の笑顔で、話しかけてきた。俺も笑顔で「別にそんなことないんですけどね」と残し、既に住み慣れた民宿の玄関を開けた。  確かに、別段なにが変わった訳ではない。今日も海へ出向き、眺め、今帰った。それだけのこと。  ただ、今日は何が違った。  心を軽く感じた。  
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