海を見つめる

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「お世話になりました」  少ない荷物をまとめ、俺は民宿の大将とおかみさんの家を訪ねていた。 「ごめんね。ボロい民宿で」 「いえいえ。大切なことに気づくことができました」  俺は素直な感想を伝えた。  人生に意味があるとするならば、俺にとってのそれは翔太だ。そんな当然のことを忘れてたなんて。  そんな大切なことを惑わすくらい、自分に酔ってたなんて。 「兄さん、いい顔になったな」  民宿の大将が言った。初めて声をかけられた。  俺は丁寧に礼を言い、宿泊代を支払って、民宿を後にした。  マンションへ帰る途中、スーパーに寄って、これからの生活のための食材を買った。  もう死んじゃうか。  そんな愚問はもう必要ない。  生きる目標は、近くにあった。
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