そして、生きる

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 万年筆とネクタイ。  大学へ進学するのか、就職するのかは知らないが、社会人になっても使える物を。そう思って選んだ。  ネットでも注文できる時代。しかし翔太へのプレゼントは、自分の目で見て、触れた上で選んできた。  郵便局に着き、郵送用用紙に必要事項を記入する。もう何十回も繰り返した作業だ。  窓口に行き、料金を支払う。喜びの感情はない。もう無くなってしまった。  それでも送り続けた。手元に届いていることを信じて。  でもこれで最後。幸せに暮らしてるなら、それでいい。  荷物を預けて、自動扉を出た。これで全ての作業が終わった。なんとなくだが、寂しい気持ちに襲われた。  車へ戻る途中、1人の青年が俺の前に立ち塞がった。  誰だよ。  そう思って、相手の顔を窺った。  一瞬だけ目が合った。  その一瞬で十分だった。  忘れるはずのない顔が、目の前にあった。
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