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16
「切子、少しは強くなったかしら」
おばさんが来訪した。
「ふふふ、それを見てよ」
部屋の隅に置いてある、私が真っ二つに引き裂いたフライパンを指差す。
「それって、これはフライパン?」
「そう」
「これは斬新なオブジェね。何かの魔除け?」
「それ、私が素手で引き裂いたの」
「はい?」
「見てて」
ベキキキキキ
真っ二つになった片方のフライパンを手に持ち、それを素手で真っ二つにした。
「ほらね」
「……ちょっと貸して」
「うん」
フライパンの破片を確かめるおばさん。
「……本物のフライパンみたいね」
「元フライパンだけど」
「あんた、北米のグリズリーと戦うつもり?」
「ん? それってボクシングのヘビー級チャンピオン?」
「地球最強の陸上生物よ」
「ふーん。でも、それに勝てるようにトレーニングしろって、お姉さんが言ったよね」
「言ったかしら?」
「言ったよ。お姉さん、私を殴ってみて」
「え?」
「お姉さん、ボクシングジムに通ってるんだよね」
「あ、うん」
「そこそこ強いよね」
「知ってるの?」
「離婚でキレた元プロボクサーをボコボコに殴り倒したらしいじゃん」
「ボコボコにはしてないわ。一発で気絶させただけよ」
「そのパンチを一発でも私に当てれたら、100万円をプレゼントするよ」
「本当に?」
「うん。本気でやってね」
「3分間でいいのね?」
「いいよ」
おばさんはいきなり殴ってきた。
それを余裕で避ける私。
いやー、動体視力も強化したから、おばさんのパンチなんて止まって見えるよ。
フェイントを交えながらいろんな角度からおばさんは本気でパンチを繰り出してきた。
でも、私は全て余裕で避ける。
「お姉さん、3分間過ぎたよ」
「ハア、ハア、ハア、あ、あんた、ほ、本当に化け物ね」
「化け物って酷いね」
「ふう。褒め言葉よ」
「あら、ありがとうございます」
「これなら、道子のレスリングタックルも大丈夫そうね」
「タックルしてきたら、顔面膝蹴りキックしてやるし」
「ふっ。それは楽しみ」
「撮影しとくね」
「そうね、正当防衛の証拠は大切よ」
「だよね」
部屋には防犯カメラを設置済なのだ。
「そうそう、ネックレス持ってきたわよ」
「あ、うん」
おばさんは床に置いてあるダンボールを開いた。
病気回復の除念を込めるネックレスだ。
「へー、高価そうなネックレスだね」
「そんなに高くはないわ」
「いくら?」
「1本5000円」
「そうなんだ」
「純チタン製」
「ん?」
「金属アレルギーが出ない材質よ」
「あ、なるほど」
「100本あるけど、どのくらいで終わる?」
「やってみないと分からないよ」
「そうよね。完成時間によって追加を持ってくるから、終わったら連絡して」
「すぐ終わると思うから、待ってて」
「え?」
「営業のお試しキャンペーン用に使うんだよね?」
「そうね」
「じゃあ、持って帰ってよ」
「じゃあ、やってみて」
「うん」
私はネックレスの束を掴み、病気回復の
除念を込めた。
数秒後。
「あ、終わった」
「はい?」
「だから、100本全部にチャージしたよ」
「……1本ずつやるんじゃないの?」
「え? なんで?」
「……普通……いや、あんたには常識は通用しないのね」
「嫌だな、私がなんか馬鹿みたいだ」
「褒めてるのよ」
「あら、ありがとうございます」
「じゃあ、加藤に追加を持ってこさせるからお願いね」
「あ、助手の加藤さんね」
「そう」
「分かった」
100本のネックレスに念を込めるのに数秒か。
身体強化したから、私の除能力も強化されたのかもしれないな。
【 おわり 】
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