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18年も引きこもり、部屋でゴロゴロしていた私は、99.9%クソ女には体力で勝てない。
なんせクソ女は元世界銅メダリストなのだ。レスリングの。
クソ女が40歳を越えたとはいえ、密かにトレーニングしていないとは言えない。
そうじゃなくても、私はその辺のお婆さんにも体力的に負けるかもしれないのだ。
クソ女が私を拉致しにくる前に、魅了一族がそんな考えをする前に、私はクソ女に小指1つで勝てるくらい強くならなければ私に未来はないのだから。
よし、やるぞ!
まずは腕立て伏せ1回だ!
私は何とか死ぬ思いで腕立て伏せ1回をやり遂げた。
ぐ、くふっ! つ、苦しい……、早く体内の疲労物質を除去しなければ私は死ぬ。
よし、疲労物質は除去したぞ。
よし、次はヒレステーキをルームサービスだ。
よし、ヒレステーキを美味しく食したし、今度は腹筋1回だ。
ぐはっ!
し、死ぬ! な、何とか1回、やり遂げたぞ。
よし、疲労物質を除去だ。
ふう。よし、今度は特上握り寿司をルームサービスだ。
ホテル寒椿では握り寿司は作ってないけど、近くの老舗寿司店からお取り寄せしてくれるのだ。
そして私は限界まで身体を追い込み超回復しながら、腕立て伏せを4回、5回と増やしていった。
そんな過酷なトレーニングを開始して1週間後。
「切子さん、誰かを部屋で飼ってます? もしくは犬とか」
「ふむ?」
変な事を質問するしーちゃんだな。
「私はずっと1人だけど」
「最近、ルームサービスを1日10回とか、大食い人間か大型犬を飼ってますよね?」
「いや、本当に飼ってないから」
「では、1人でそんなに食べて相撲取りになるんですか?」
「いやいや、ならないよ」
「切子さんが大食い体質とは知りませんでした」
「私も知らない」
「高級ステーキや高級寿司とか1日5万円以上のルームサービス。流石に無料では」
「あ、そっか。なら払うよ流石に」
「ありがとうございます。1日1万円までは無料にしますので」
「ありがとう、しーちゃん」
「いえ。しかし、そんなに食べるとは何かストレスですか? 私で良ければ相談に乗りますが」
「えっとね……」
私はしーちゃんに理由を話した。
「なるほど。そんな理由が」
「そうなんだよ。敵は身内にありだよ」
「切子さんのお母さんの写真とかありますか?」
「ん?」
「このホテルに入れないように、従業員全てに顔を教えますので」
「いやいや、クソ女がどんなボディーガードと来るか分かんないし、下手に阻止しないほうがいいよ。下手すると殺されるよ」
「まさか、そこまでは」
「いやいや、魅了一族をなめないほうがいいよ。だから負けないようにトレーニングしてるんだし」
「しかし、相手は元とはいえレスリングで世界3位。この短期間のトレーニングで切子さんが勝てるとは」
「しーちゃん、今の私の力を見たい?」
「え?」
「壊してもいいような古いフライパンとか持ってきてよ」
「フライパンですか」
「鍋でもいいけど」
「分かりました」
で、しーちゃんが持ってきた古いフライパンを、新聞紙を半分に割くように私は両手で軽く引き裂く。
べキキキキ
「……切子さん、本当に人間ですか?」
「そうだけど」
「心配した私が何か馬鹿みたいです」
「そんなことないよ、ありがとうね」
「いえ、とんでもない」
さて、しーちゃんも安心してくれたし、腕立て伏せ1000回やるか。
超回復を繰り返した私は、1週間のトレーニングで腕立て伏せ1000回を20分でできるようになったのだ。
おばさんに「これ、使ってみて」ともらった、先端に10キロの重りがある長い金属の棒の反対側を片手で持ち、軽々と持ち上げれるし。100キロの重りを片手で持ち上げているのと同じになるらしい。
拳も全身の皮膚や骨、筋とかも強化している。思いっきり鉄を素手で殴っても痛くないし、私の皮膚には千枚通しを思いっきり刺しても刺さらない。
これでクソ女が私の骨を折ろうとかしても折れることはない。関節を取られても痛くもない。
元々、凶器や毒とか麻酔とか私には効かないし。
ふう。たったの1週間でよくもここまで身体強化できたもんだね。
よっぽど私はクソ女に負けたくないらしい。
来るなら来てみろ、クソ女。返り討ちにしてやる。
寝ているときはどうするの?
ふふん。私は寝なくても大丈夫なのだよ。人間が寝るのは主に脳内の疲労物質を減らすためらしいけど、私は疲労物質を除能力で除去できるから脳が疲れないのだ。
記憶の整理とかにも睡眠は大切らしいけど、部屋に閉じこもっている私には、新しく記憶しないといけないような記憶なんて少ないし。
忘れると困る大切なことはメモしたり録音しとけばいいもんね。
だから、私の寝込みを襲うのも無理。
クソ女にさえ負けなければ、私は無敵かもしれない。
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