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桜は嫌い。
散った後が見苦しいから。
咲く前の桜にそんなことを言った彼女への想いが、未だに積もり積もる俺は見苦しいどころじゃないよ。
なあ?
都会に出て行く彼女を見送った無人駅は、桜の名所としてちょっと有名になった。
あれから何十年。
地元に残って就職して、毎年毎年律儀に咲いては散る桜を見てきた。
妻と出会って子供が産まれて巣立って孫が産まれて。
それなりに桜の季節に思い出もあるのに。
花吹雪が道の端にこんもりと溜まって茶色くなっていくのをみるたびに、そうだよな、なんて思い出して、何十回。
今年はあの無人駅へ、大切な人を迎えに行く。
「うわー、掃除大変そう」
それが、第一声。
初めて一人で、電車に乗ってやってきた孫娘の言葉に、思わず笑ってしまった。
「どうせ積もるなら落ち葉はどうだ。芋も焼けるぞ」
「おじいちゃん、今は落ち葉で焼き芋なんてことしたら消防車が来ちゃうよ」
「そういう時代か」
今年も咲いて散って溜まって腐る桜に重なる声を、ようやく忘れられそうだった。
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