待つところ

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「立ち退きの話は聞いているよ。だけど、引っ越し先の土地がまだ決まっていないからって・・・」 『そうだけど!私達の家の前にある桜の樹。覚えている?』 『忘れる訳ないだろう・・・』  俺の心の声がそのまま「忘れる訳無いだろう」と口に出ていた。  そう・・・。忘れる訳は無い。忘れられない場所だ。 『あの桜も、伐採されるんだよ』 『そうか・・・』  彼女が怒っているのは立ち退きの話じゃ無く、あの思い出の桜の樹が伐採されるからだ。  二人が子供の頃から、互いにあの場所が待ち合わせ場所だった、幼稚園の時、あそこで送迎バスを待っていた。  小学校に入ると、桜の樹の下が集合場所で、あそこから一斉に集団登校をしていた。  中学校に入ると、互いに別々の部活動に入っていたから、なかなか一緒にとはいかなかったが、朝練が無い時は待ち合わせ場所になり、一緒に登校した。  俺の親が『さりなちゃんは女の子なんだから!』と、帰りは一緒に帰って来た。桜の下で、俺は彼女を玄関に入るまで見送っていた。
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