特濃コーヒーソーダ

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 謎のメニューがあった。 《コーヒーソーダ(特濃の場合は別途ご注文ください)》 「なんですかこれ? しかも特濃とか」  新人バイト女子大生・小石川は、ここ『喫茶アガツマ』の若きマスターに聞いた。 「コーヒーのソーダだよ。特濃は、作って欲しいってお客様がたまに来るんだ」  マスターは左額に手を当てかけて、飲食の仕事中なので慌てて下ろした。たまに見るマスターの癖だ。  コーヒーソーダ、という飲み物があるのは小石川も何となく知ってはいたが、飲んだことはなかった。ましてや特濃。 「どんな人が頼むんですか」  そのとき威勢よくドアが開き、元気な声が店内に響いた。 「こんにちは! 特濃コーヒーソーダお願いします!」  店に入ってきたのは、長くフワフワな髪を七色に染めた女子高生だった。 「いらっしゃいませ」  マスターは普通に声をかけたが、派手な髪色に小石川は『いらっしゃいませ』も忘れるほど驚いた。 「その色は『ジュリエッタ』の夏のトロピカソーダかな」 「さっすがマスター! せいかーい!」 七色の髪は、ライバル店の新作ドリンクメニューの色合いらしかった。 『こういう個性的な子が頼むのね……』  何となく納得して、小石川は水と、一応メニューを持っていった。  マスターは、濃縮コーヒーを冷蔵庫から出して、小さなグラスにソーダで割って入れた。レモン果汁とシロップを足す。氷は入れず、小さなストローをさした。 「どうぞ」 「ありがとうございます!」  女子高生は丁寧に頭を下げると、その濃ゆい飲み物を笑顔で飲み干した。  刹那。  七色の髪色が、みるみる特濃コーヒー色へと染まっていく。 「わーやったー黒ーい!」 「そのくらいの色で大丈夫かな?」 「うん、ありがとうマスター」  小石川は驚きすぎて声も出なかったが、周りの客は意外にも、おおと少し歓声と拍手が上がる程度だった。 「このお客様は特異体質でね、飲んだソーダの色に髪が染まるんだよ。この辺の喫茶店では有名人なんだよ」  新人バイトに雇い主が説明した。 「でも校則じゃ染めた髪はNGだし、お客様はソーダ大好きだから、こうして学校行く黒髪用ソーダをウチで作ってるの。  コーラとか色々試したんだけど、これが一番飲めて怒られないみたいなんだ」 「そうなのです、あんまり好きな味じゃないけど助かってます! マスターいつもありがとうございます!」  女子高生の正直な感想にマスターは苦笑した。 「いつもは週末までガマンするんだけど……夏のトロピカソーダが私を呼んだのです…っ…」 「美味しかった?」 「最っ高でした‼︎」  マスターは小石川に「今度飲みに行こうか」と提案した。
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