真夏の卒園式

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娘が病院に運ばれたのは、数ヶ月前。 座敷に布団を並べて眠っていた夜更けに、お腹を抱えて泣いている娘を見付けた時だ。 少し前からずっとお腹の調子が良くないと言っていた娘の話を、忙しさを言い訳に、適当に聞き流していた結果だった。 【小児大腸癌】 医師から告げられた娘の病名。 何を言われているのか全く分からなかった。 癌? 娘が? まだ6歳になったばかりなのに、癌? 何を言ってるの? 何で娘が? 子供なのに、癌? ただ、呆然としていた。 一通り説明をした医師が、最後に言った一言で、私はそのまま泣き崩れた。 「大変厳しいですが、我々は絶対に諦めません。だから、お母さんも絶対に諦めずにいてください……」 その日から様々な検査や化学療法などが始まり、目まぐるしく日々は過ぎて行った。 大人に比べて化学療法の効果が子供は大きいといわれているが、娘はほんの少しだけ効き目が弱いようだった。 やはり、抗がん剤の副作用は辛く、娘が自慢していた綺麗な黒髪も殆どが抜け落ちてしまった。 マスクのゴムで耳が痛いと泣き出す事もある。 代われるものなら、代わってあげたい。 娘が苦しむ姿なんて見たくない。 娘には、いつまでも元気で笑っていて欲しいのに…… でも。私が諦めちゃダメだ。と自分自身に喝を入れ、病室へ戻った。 病室へ戻ると、千尋はベッドに横たわりながら、テレビを見ていた。 「ママ……さくらさんが きれいだねぇ」 各地で桜が満開になっているというニュースだ。 「来年は、お花見に連れていってあげる。だから、頑張って治して元気になろうね」 そういって娘の手を握った。 まだ、こんなにも小さな手。 不妊治療の末に、ようやく出来てくれたこの世で一番大切なこの子を、病気なんかに取られて堪るか!! 覚悟にも似た気持ちが沸き上がってくる。 「みんな げんきかな……」 娘の呟きで、ハッとした。 そうだ……卒園式……。 娘は、出席することは叶わないだろう。 「みんなと一緒に卒園式出たかったね」 そういうと、娘は寂しそうに笑って『うん』と頷いた。  
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