真夏の卒園式

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「ママぁ…… ちーちゃん もぉ…がんばれない……」 瞳に一杯の涙を溜めながら、6歳になったばかりの千尋が呟いた。 「大丈夫。絶対に良くなるから。絶対に元気になれるから。ね。もう少し頑張ろう」 千尋の頭を撫でながら私は言った。 しばらく私の目を見つめていた千尋が小さく頷く。 「げんきになったら また おっきな ピザが たべたい」 大粒の涙が瞳から溢れる。 「うん。沢山おっきなピザを作ってあげる。」 そういうと、千尋は小さく笑った。 その笑顔を見た瞬間、堪えていたものが一気に溢れて来そうになって、慌てて『トイレに行ってくるね』と伝えて、病室を出た。 【叶えてあげられないかもしれない】 もしかしたら、娘が再び元気になってこの病院を出ることはないかもしれない。 『頑張れない』と言った娘に、【頑張れ】としか言えない私は、最低の母親なのかもしれない。 勘の良い娘の事だ。きっと私の表情などから何かを感じ取ったのだろう。 笑ってくれたのは、私を安心させるための娘の気遣いだ。 私は、何て情けない母親なのだろうと、自己嫌悪した。 娘の前では、涙は見せない。 そう自分自身の約束したのにも関わらず、何度も泣きそうになる。 何一つ、娘が誇れるような母親ではない。 裕福でもなければ、エリートでもない。 キャリアウーマンでもなく、ただのしがないスーパーのレジ打ち係。 娘が2歳になった頃に別れた夫は、養育費さえまともに入れてくれない最低な男だ。 お友達が持ってるような可愛いアニメのグッズなどを買ってあげたりも出来ない。 日々、食べて行くだけで精一杯。 娘には、我慢させてばかりだ…… 洗面所の鏡に映る自分の顔を見て、腹立つのと同時に、情けなくて涙が止まらなくなった。  
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