クラスメイトver.

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クラスメイトver.

俺だけが知っている、キミの秘密。 なんでかわかる? だってそれは――……。 「ねえ、小山内(おさない)さん」 「――」 「小山内さんってば」 「――」 「(さき)」 「へ?!」 「前からプリント、回ってきてるよ」 「あ、ごめん……瀬名(せな)くん」 俺の前の席にいるのは、よくぼーっとしている小山内(おさない)(さき)さん。正しくはぽーっとだ。 そうだ。効果音からもわかるように見惚れている。とある人に。 「でも……突然下の名前で呼ばれると心臓に悪いよ」 言っている傍からその目はもう、とある人を追っかけている。それが少しつまらなくて、俺のイジワル心が顔を出す。 「それなら、小山内さんがもっとドキッとするヒミツを俺が教えてあげよっか」 「な……なんですか……?」 呼び名と彼女の受け答えからして、お察しの通り俺たちは親しい友人と言うにはまだ少し遠い関係だ。 まあ“たまに会話するクラスメイト”が妥当なところか。 たまにと言っても話しかけるのはいつも俺の方からだけど。 「気になる?」 「……少し」 少しか……。もうちょっとくらい興味持ってくれても良くない? キミのことなのに。 「いいけど、大声だしちゃダメだよ」 彼女はすでに口を固く閉じ慎重に頷いた。今はまだ普通に話してもいいのに、と俺はおかしくなる。 “小山内さんの好きな人って担任のセンセーでしょ” そう、耳元で告げればその耳は瞬く間に真っ赤に染まった。 わかりやす。さ、キミはなんて言うのだろうか。 否定するか。怒るか。 それとも泣く――? それはそれでいいかもしれない。俺は少しイジワルだから、俺の言葉で泣くキミも見てみたい。 だけど、意外にも彼女はあっさりと認めてしまった。 両手で真っ赤になった顔を扇ぐ。そして俺に “絶対……誰にも言わないで。お願い”とそう言った。 「いいよ、小山内さんと俺のヒミツね」 でも、涙目の上目使いは反則でしょ。キミが全然計算していないのは知っているけど。 「でも瀬名くんはどうしてその、わかったの? 私誰にも話していないし、うまく隠していたつもりだったんだけど」 どうしてって、そんなの理由は簡単。一つしかないのだから。 「だって、小山内さんずっとセンセーのこと見てんじゃん。授業中もホームルームのときも」 「ええ! うそ……」 「ほら今も、俺と話してても時々目があっちにいってるんだよ」 「ホントだ、無自覚だった……」 頬が逆上せてきっと頭の中はセンセーのことでいっぱいなのだろう。俺と話していても。 だから俺はハツラツと言った。 「じゃあ、ここで問題!」 「?!」 「どうして小山内さんがセンセーをずっと見てるって、俺がわかったでしょう?」 「え、だってそれは瀬名くんが……私のこと…………?!」 「うん、続きは?」 「わ……私のこと……見てた、から……?」 「そう、正解」 「っ……」 正解したというのに、小山内さんはあんまり嬉しそうではない。それもそうか。好きでもない男からの好意なんて。迷惑なだけだ。 でも、だけど……やっぱり映りたい。少しでいいからキミの目に俺を映してほしい。 キミは言ったね。センセーを好きなこと、上手く隠しているつもりだって。 本当、そうだと思う。キミと仲のいい友達だって全く気づいていない。もちろん見られているセンセーだって。 キミがセンセーを見ているそれ以上に俺はキミを見ている。もうずっと前から。 卒業まであと10ヶ月。 そう、10ヶ月()あるのだ。キミがその間ずっとセンセーを思い続けて告白するかもしれないときまで――。 いや、あと10ヶ月()()ない。俺がキミと一緒にいられる残された時間は――。 「小山内さん、代わりと言っちゃなんだけど……俺のヒミツもひとつ教えてあげるよ」 「ヒミツ? 瀬名くんの?」 「そう、とっておきのを」 首を傾げる彼女に俺はニコッと笑ってみせた。 “俺の好きな人は……小山内咲だよ” 俺はキミの特別にはなれないから、せめて俺のことでちょっと困らせたいだけ。 (終)
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