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キッと睨み上げると、彼は爽やかな笑みを浮かべ、再び新城先輩の隣を追いかけた。
「憂里、先日の件はありがとう。とても助かったよ。今日は僕が出すから好きな物を頼むといい」
「おー、部長の大盤振舞い?やたー!刺身を船で頼もっ!!」
「部長流石っス。オレは大吟醸酒で」
早乙女先輩と蝶野先輩がさっさと店の中へ入って行く。
「おい君たち、ここぞとばかりにたかるな。
そんでもって君らは今日失敗してただろ」
「えー、失敗は成功の元と言いますからね」
「そうそう。明日は失敗せずちゃんとプレゼンしてみせますから」
見た目とは裏腹にノリノリなテンションの蝶野先輩は、僕を見て手のひらをヒラヒラと振った。
唇が『ごめんな』と言っているように見えた。
なんなんだ?!
新城先輩たちが先に店へ入って行くと、わざわざ引き返して僕の元に早乙女先輩がやってくる。
「ごめんね!アイツが、、あ!アイツって国司良太のことね。
新城ちゃんのこと昔から大っすきでさー、君と2人で飲むって聞いて、いてもたってもいられなくなって無理矢理来ちゃったんだ。
あんなクールぶってるけど、内心は君に取られるかもってヒヤヒヤしてるんだよ」
「はぁ、、、先輩は色んな人からモテますから、仕方ないことですが、こんなあからさまに邪魔するとかあるんですか?」
せっかく2人きりでと思っていたのに、それが馴れ馴れしく先輩の肩を抱いたり、仲の良さをアピールしてくるのは、流石にいただけない。
早乙女先輩は口角をニヤリと上げ、視線をこちらに寄越す。
「だって、あの新城 憂里だよ?
入社した時から壁を作ってきたあの新城ちゃんが、後輩と一緒に朝も夜もいるんだから、そりゃ社内でも話題持ちきりになるわよね」
そんなに噂されてるの?
流石に知らなかったっていうか、社内恋愛禁止なのにそんな噂流れてたらヤバいんじゃ。
「えっと」
「あー!心配しないで!社内恋愛禁止でしかもその社訓を追加させたあの新城 憂里がまた新人を誑かしているという噂は、うちの部長が蹴散らしてるから。
あの爽やかで優男な顔してゲスいこと考えてるからね」
流石にその噂はクリティカルヒット。
噂、、、そんなふうに社内に出回ってしまっているのか。
視線が下に落ちると、早乙女先輩は僕の肩をポンポンと叩く。
喧騒する夜の飲み屋街で、客引きの声や酔っぱらいの笑い声が響く。
「国司部長が噂を否定してくださっていると?」
「そうそう、うちの部長が女の子たちの輪に入って、黄色い声を受けながらやんわり否定して回ってるみたいよ。
だから、国司部長にあとで御礼伝えなよ!」
お礼、、、別に頼んだ覚えなんかない。
国司部長にとってみたら、僕と先輩がくっついている噂が気に食わないわけで、それを否定して回っているのだろう。
いや、違うだろ。
僕との噂が、先輩のためにならないからだ。社内の立場が危うくなっているから、火消し役を買って出ているんだ。
手に力が入る。
誰かに助けられていることに、酷く情けなくなって、恥ずかしかった。
先輩のこと、ちゃんと考えて行動してなかったかもしれない。
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