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ウニクロは安くて高機能な服がたくさんあるから、これからもこうして付き添ってくれるようになるなら、着替えも何着か買ってあげた方がいいかもしれない。
ウニクロに入ってすぐ、五木くんは普段着でも使えそうなスラックスを手に取った。
「選ぶことなく手に取ったけど、同じの持ってるの?」
入店して間もないのに、彼は一直線でそれを手に取ったので、何となく言葉に出した。
彼はにこりと笑う。
「そーなんです。すごく履き心地よくて!しかもシワになりにくいし、埃もつきにくくて、値段も安いしでめっちゃリピート商品なんです」
「確かに、五木さんって好きなものずっと持ってるタイプだよね」
思い返してみたら、お昼ご飯も月曜日から金曜日までのルーティン定食を頼んでいる。
月曜日は魚、火曜日はお肉、水曜日は洋食、木曜日は和食、金曜日は鍋料理。
しかも洋食の日は決まってナポリタンかオムライスのどちらかだ。
うちの社食は割とメニュー豊富なのに、わざわざ絞っているのだから、可愛いと思う。
「こう見えて一途なんですよ」
「見た目は童顔だし、チャラそうなのにね」
「そーですよー。だから勘違いしてる人多くて困ってます」
五木さんでも困ることあるんだ。
私と少し似てるところがあって、ちょっと親近感湧くなぁ。
「あ、五木さん」
後ろから来たカップルが前を見ずに歩いているのを見て、咄嗟に彼の腕を引いた。
何事もなく通り過ぎていく若いカップルはイチャイチャに夢中で五木くんのことなんて眼中にないようだ。
「ぶつからなくて良かったね」
手を引いた彼の顔を見上げれば、五木さんは頬を赤くしていた。
「体調悪いの?」
「あ、いや、えっと、ちょっと店内暑くて。
その、ありがとうございます」
パタパタとシャツを扇ぎ、ワイシャツの第一ボタンと第二ボタンをあけ、手に持ったスラックを会計に持って行こうとした彼を止める。
「あ、待って」
「どうしました?」
「私のせいで服が汚れちゃったんだから、私が支払うよ」
「良いですよ、それにこれは先輩が悪いわけじゃなくて不埒な野郎がいけないわけですから」
「だめです。
これは先輩として見過ごす訳にはいきません。
私のために体を張ってくれたお礼と謝罪の意味があるから」
「でも!」
「それに、無償で提供される善意はやっぱり怖いから」
「ッ、、、、そう、ですよね」
傷ついた顔を見て、言いすぎたかもしれないと思った。
だけど、本心だ。
私の経験からくる結果だった。
『なんでもしてあげる』の裏側は、いつも悪意に満ちていて、『言いなりになってほしい』という欲望が後からやってくる。
あの時こうしてあげたよね。
助けてあげたよね。
アドバイスしてあげたよね。
やってあげたよね。
全部、見返りを求められる。
「せんぱ」
「あら、美男美女のカップルさんですかー?
お似合いですねー!」
ニコニコ笑顔の綺麗なスタッフが現れ、五木さんは口をぱくぱくさせた。
「お、お似合いですか?」
ぱぁっと赤くなる五木さんは照れて
「同じ会社の後輩です」
とキッパリ返答した私たちをスタッフは目をぱちくりさせていた。
「えっと、良かったらそちらの商品お預かり致しますが、まだ店内をご覧になりますか?」
気まずさに笑顔で乗り切ろうとしたスタッフ。
いえ!と断りかけた五木さんの言葉を遮った。
「はい。この子に似合うスーツを3着ほどお願いします。出来ればオータム系の」
「かしこまりました!
それでしたらこちらのスーツならうんたらかんたら」
カジュアルですか?オフィスですか?と根掘り葉掘り聞かれながら彼のスーツを選んでもらっていると、五木さんは居心地悪そうに眉根を下げて言う。
「スーツこんなにいらないですよ!」
「大丈夫、きっと必要になるから。お金なら持ってるから」
「なにそのかっこいいセリフ、、、僕も早く出世したいです」
「じゃあまずは長いものに巻かれなさい」
「そうします」
五木くんはスーツ3着とスラックスを手に入れた。
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