542人が本棚に入れています
本棚に追加
後輩はエロ配信者
「先輩、おはよう御座います。二日酔いは大丈夫ですか?」
量産型のイケメンがスッキリしたような声と笑顔で、朝のオフィス前の戸を開けて言う。
「大丈夫そう。昨日は送ってくれてありがとうね、五木さん」
いえ、体調が良いなら今日の業務に支障は無さそうで安心ですね!とにこやかに、爽やかに言ってくれる。
今日も安定の五木さんの爽やか満タンスマイルは他の社員たちにも元気を齎し与えてくれる。
飲め飲めとうるさくしていた部長がどうやら二日酔いらしく、顔色が悪い。
そして部長をヨイショしていた他の社員たちも顔色が悪い、、、。
今日は残業かな、、、。
唯一私と五木さんだけが二日酔いになっていないらしい。
「五木さんは二日酔いとかしなかったの?」
「はい。僕ザルなんで」
「え?」
思わず首を傾げた。
昨日は確か、『お酒は体質に合わなくてあまり』と部長の飲みを断っていたはず。
それで部長をなだめるために私がかわりに飲んだのだ。
彼の緑色の瞳が揺らぐと、申し訳なさそうに眉根を下げた。
「そのせいで新城先輩がお酒飲むことになっちゃって。すみませんでした。考え足らずで」
その可愛いくもカッコいい顔で言われると、仔犬みたいでつい「良いよ、気にして無いから」と許してしまう。
ざるなら飲んでも平気なのになんで断ったりしたんだろう?
そんなことを考えていると、五木さんは言い忘れたと言わんばかりにつぶやく。
「先輩と一緒に飲みに行ったの初めてだったから、部長に捕まって隣に座るのだけは避けたかったんです」
「??」
部長少し面倒くさいから仕方ないかぁ。
「そうだね、部長の話長いしね」
ふふふっと思わず笑うと、五木さんは困ったように再び眉根を下げて「違うのに」とため息混じりに吐く。
「そこじゃないです。僕は先輩と飲みたかったんです!」
開放的なオフィスは窓が大きく、社員たちの息抜きができるようにと海を眺めながら仕事ができる。
私が入社した会社は建設会社で、港街を見渡せる大きなビルに入っている。
そんな景観が美しいオフィスの中で、彼は頬を膨らませた。
「あ、そっか。いつも私は飲み会参加しないしね。ごめんごめん」
それでも五木さんは優しい眼差しを向けて首を横に振った。
「仕方ないですよ、お婆様はきっと新城さんを心待ちにしてますから。気にしないでください」
私の祖母が去年の夏から入院した。
免疫力が下がり、病気に罹りやすくなってしまったためだ。
「ありがとう。そう言って貰えると気持ちが楽にになるよ」
会社にいる間、病院から連絡がきたらすぐに駆け付けられるように部長にも話してある。
私の母は早くに子宮がんで亡くなり、祖母の面倒は私が見ることになっている。
父も同じく癌を患い、母のあとを追うように2年後に亡くなった。
「あ、でも、また一緒に飲みに行ってくれますか?」
「もちろん」
嬉しそうに瞳を細めて、口元が緩んだ彼は自分のデスクトップと向き合った。
最初のコメントを投稿しよう!