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「噂だと、欲しかった服やおもちゃが届いたり、病院に有名な美容師さんが来てくれたりしたみたいね」
「随分と物理的に色々してくれる妖精さんね」
ファンタジーというより足長おじさんなのでは。
「妖精さんの正体は誰なの?」
生けた花の手入れをしながら、おばあちゃんにそう訊ねると、おばあちゃんは五木さんを見て微笑む。
「ふふ、そうね。とても可愛い妖精さんよ。
些細なことにとても敏感に気がついてくれる優しい人だわ。
あと、とてもお喋りが大好きな子ね」
まるで妖精の正体を知っているかのような素振りで話すおばあちゃんに、「私も会ったことある人なの?」と訊ねた。
昇降型ベッドに座るおばあちゃんは、瞳を細めて言う。
「さぁね。妖精さんは恥ずかしがり屋さんだから」
「教えてくれないの?お礼を伝えたいのに」
おばあちゃんのために病院敷地内に紫陽花を持ち込める人ってどんな人なのか。
この病院の権力者なのか、それとも本当に妖精なのか。
不満そうに眉根を下げると、おばあちゃんは唇を開いた。
「院長先生のお孫さんなのよ。たまに病院へ来て、お手伝いすることもあるみたいよ」
「なんだ!正体分かってるじゃない!」
ちょっとファンタジーな感じが素敵だと思っていたのに。でも、院長先生の孫がそんなことをしているのか。
やっぱり医者なのだろうか。
「子供たちには“病棟の妖精”になっているのよ。だからこの話は大人たちだけ知るお話よ」
「なるほどね。じゃあ、ナースステーションへ行ってお礼の手紙でも」
「ふふ、妖精さんなんだから今ここで言えば届くかもしれないわね」
「えぇ?私はもう大人なんだからそんなこと」
おばあちゃんはいつまでも純粋な気持ちは大切よね〜と笑って言うから、「妖精さん、おばあちゃんの願いを聞き入れてくれてありがとうございました」と呟いた。
後輩の前でこんなことを呟かされるとは思わず、照れ臭くて五木さんに話を振った。
「五木さんもなんとか言って」
さっきから静かに聞いていると思って、隣を見ると、なんでかニヤニヤと口元を緩めた彼が私を見ていた。
「先輩が“妖精さん”って、、、可愛い」
「会社で言いふらしたら怒るからね」
「言いませんよ〜」
本当だろうかとつい疑いたくなる。
女の子たちにチヤホヤされる彼がうっかり話してしまうのではと、少し心配だ。
ビッチと流されたあとに“妖精さん”を信じるイタイ女だなんて言われるのは勘弁してほしい。
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