病棟妖精の正体

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30分という短い面会時間を終えて、静まり返った病院を出た。 「今日も付き添ってくれてありがとう。 私が電車に乗るから、わざわざついて来てくれてるのよね」 痴漢対策として毎朝駅で待ち合わせ、帰りもこうして最寄りの駅まで送ってくれる。 こういうことをするから、周囲の人間に愛されるんだろう。 彼の人としての優しさを感じられ、良い後輩、部下を持ったと嬉しくなる。 そして忘れてはいけないのが、彼は私の最推しである『エロ配信者イツキ君』なのだ。 顔を配信で公にしていないし、マスク姿だからピンときていないけど、間違いなく彼はイツキ君だ。 意識しないように、今まで通りを貫こうと試るものの、数々の自慰動画を観てきたので、少しそれに似た体勢をされると脳内再生され、興奮して鼻血が爆発する。 お陰でオフィスでは高嶺の花は病弱設定まで追加され、残業続きだった仕事が軽くなった。 課長が無理するなよと心配してくれたお陰だ。 今まで5〜10分しか面会出来なかったけど、残業が無くなったお陰で30分になったのだ。 大変有り難い。 「いえいえ、先輩の私生活を守ってこそですから!」 意気揚々と腕を挙げる元気の良さに、若いなと口元が緩んだ。 「完全なるプライベートなのだから、部下は必要ないんだけど」 高く挙げた拳がシュンと下がる。 すぐ態度に出るこの感情表現は、子供っぽくて、だけど憎めないくるくると変わる表情は、みんなを虜にする。 「僕は僕のプライベートに使ってるので、そんなふうに言わないでください。それに千智(ちさと)お婆様とはALINEフォローし合ってる仲なんで、無関係とは言わせません」 「待って、フォローし合ってるの?初耳なんだけど」 2人はいつからそんな仲良くしてるわけ? 怪訝に眉を歪め、口角を下げた。 五木さんは得意げにドヤ顔をして言う。 「フフン、千智お婆様から料理のレシピを教えてもらったり、手芸を教えてもらってるんですよ!一人暮らしなんで!第二の母的な存在ですね」 「孫が増えた気持ちなんでしょうね」 「そうかもしれません」 構って貰えるのが嬉しいおばあちゃんと、丁寧に教えてもらえて嬉しい五木さんはどう見ても孫とおばあちゃんだ。 すっかり私のポジションを奪われた気分だけど、でも悪くないと思ってしまう。 家族が増えたような、そんな暖かな気持ちだ。 病院から歩いて5分の場所に駅があるため、お見舞い帰りの人もチラホラいる。 そんな1人の二つ結びした6歳くらいの女の子が五木くんを指さして言った。 「だ!」 隣にいた彼を見上げ、目を丸くした。 今なんて?
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