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細くて柔らかい髪質。
こんなに艶々だったっけ?
若干普段の五木さんにエフェクトでもかけてしまっているような気がする。
グレーのスーツ姿はよく見る。
そういえば、配信してる時に見るスーツはいつも黒っぽいネイビーのストライプ柄だったな。
きっと、スーツで身バレするのを防いでるんだろうな。
ネクタイもほとんど変わらないし、特定したがるファンもいたけど、スーツとネクタイの色、彼の髪色だけでは特定には至らなかったらしい。
噂では芸能人がやってるとか、ジャ○ーズの卵だとか言われてたけど、プロフィール通り本物のサラリーマンでした。
「先輩」
「はい?」
「僕の髪の毛がさっきのボサヘアより酷いことになってます」
「?!!!」
イツキ君の自前の手鏡だろうか。
鏡越しにイツキ君と目が合って、ゲンナリした彼の口元が歪んでいる。
そうだったー!!!
私、すんごく不器用なんだった!!!
でもここは先輩らしく動揺せず毅然と謝る。
「ごめんね。イツキ君にしてみたいヘアセットがあってやろうとしたんだけど、だ、だめでひた。した」(言い直した)
声は冷静なのに言葉が動揺して噛んでしまった!!
「先輩確かに手先不器用ですよね」
ズバッと心臓に刺さり、凹む。
「先輩って見た目は完璧で美人で、隙のなさそうな人だし、毅然としていて仕事も出来るのに不思議ですね」
「それは褒めてるの?」
「褒めてます。敬愛している先輩ですし」
いや、見た目完璧なのに中身がダメだと言っているじゃない。
私が異性に対して思われる第一印象が『完璧』だった。
でも、実際はそうでもなくて、裁縫とか料理とか苦手だし、できるのは掃除くらいしかなくて。
彼氏が出来てもまずそこからドン引きされる。
『もっと家庭的な人かと思った』
『料理とか作れそうだと思ったのに、生ごみみたいな料理じゃん』
『手先不器用だと夜の方も下手なんじゃね?』
と、私の中身はフルボッコにされる。
悪かったわね、不器用で。
それでも、私なりに頑張って好きな人に料理や編み物に挑戦したのだ。
結果、愛は重くて料理もクソ重い女で『将来性のない女』として見られるようになった。
なんか、私は人生詰んだのではないかと思う。
五木さんはデスクトップを離れて髪の毛にベットリついたワックスを落としに手洗いに向かった。
社内はトイレに大変力を入れていて、居心地が良いと評判だ。
なぜなら化粧品会社とトイレ会社とタッグを組み(?)、トイレは女性も男性も美しくなれる場所となっている。
当然、ドライヤーも完備されている(なぜ)。
ちなみに女性用トイレにはストレートヘアアイロンなど、美容に欠かせないものがほぼ揃っている。
何が凄いって、そのトイレで化粧品が買えるのだ。(実は販売前の商品をお試しで使えるようになって、アンケートを取っているのだそう)
最近では韓国メイクが流行っているので、メンズトイレも基礎化粧品をメインに売れているらしい。
そんな私もこのトイレはかなりのお気に入りだ。
イツキ君に塗ったワックスもここのトイレコスメ(略してトイコス)で買ったものらしい。
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