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彼が院長先生の孫だということには驚いたし、見ず知らずの人に何か“奇跡”のようなプレゼントをしていることは、悪いことではないと思うし、それに救われたり希望に感じている。
何も、恥ずべきことではない。
「妖精の仕事はいつからしているの?」
「え?えーと、いつからなんでしょうね。
自分で稼げるようになってからなので、4年前からでしょうか、、、あ!お金に頼らずでしたことを含めたら、まだ病院に花壇があった頃に女の子に青い花を病室に置いて来たことがありましたね」
青い花、病室?
あれ、なんだか身に覚えがあった。
母が衰弱していく病院に通っていた私が11歳頃、父は仕事で、いつも面会時間ギリギリまで行っていた頃だ。
母が検査して、いない病室になぜかベッドの上に真っ青なネモフィラがいっぱい置かれていたことがあった。
誰が花を置いていったのか、正体が分からないまま夕暮れの病室で私は花の名前を調べていた気がする。
その花の名前がネモフィラであったこと。
母はその数日後に亡くなった。
だから、あの花はてっきり死神が寄越した報せなのかと思っていた。
「あの女の子は元気になったのかなぁ」
「なんで花を?」
彼はキョトンとした。
「なんで、、、うーん。
言葉にするのは難しいですね。あの時はその子が喜んでくれたら良いと思っていただけなんで。
あ、でも初恋だったのかもしれません。
幼心に、その子を見かけては母にあの子に話しかけたいとせがんでいたんですけど、病院は遊ぶ場所じゃないからダメだと怒られてしまって。
結局、一度も話せずに、彼女と会えなくなっちゃいました。
爺さんに来客用の茶菓子を届けに母に連れられて行くだけの病院でしたからね。
そのたびに必ず見かけるようになったショートヘアの彼女は、とても綺麗でしたし、惹きつけられる雰囲気があって、ミステリアスでした。
でもいつもこの世の終わりみたいな顔だったので。
今思えば、ご家族の方が入院していて、心配だったのかもしれませんね」
「喜んで欲しくて、、」
今まで胸につかえていたものが解けた気がした。
あの頃の私に会いに行けたら伝えてあげたい。
死神なんかじゃないよ。
母のことでいっぱいになっていた父もおばあちゃんも私のことを気に掛けられていなかったあの時、私を見てくれていた人がいたのよと。
たった6歳の、小さな男の子に私は見守られていたんだよと、伝えてあげたい。
ネモフィラの花言葉は『初恋』。
小さな男の子の初恋を死神からの贈り物だと勘違いしていた。
もっと世界は、私に優しかったんだ。
死神に恋心を抱かれた母を死神が連れて行ってしまった。
あの花は忌々しいものではなかった。
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