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「電車来ましたよ。今日は座れると良いですね」
電車が来るアナウンスなど耳に入らないくらいに、胸の奥から高鳴る音を隠して、私は彼の背中を見上げた。
「たった二駅だから良いのよ。家に寄っていく?」
「あ?!いえ!!このまま帰りますっ!」
ホームに電車が来ると、鉄の扉が開いて人が流れるように降りてきた。
彼は慌てて断りながら私の肩をさり気なく人から避けるように守ってくれ、先に車内へと行かせてくれた。
この何気ない気遣いにいちいちドキドキしてしまう。
何故だろう。今日はなんだかいつもと違うドキドキな気がする。
「今日空いてますね!ラッキー」
そう言いながら彼は私をドアの角へとやってくれ、倒れないように前に立ってくれる。
銀色のポールに掴んだ手から白檀の香りがした。
彼の匂いは日によって変わるみたいだ。
この前は香水の香りだったけど、今日は落ち着く香りがする。
「そうだ、明日は約束の飲みニケーションの日ですからね!忘れてませんよね?!」
彼は嬉しそうに白い歯を見せて笑う。
「えぇ、覚えてるわ。行きたいお店ある?」
どれだけ飲みたいんだと思わず笑ってしまう。
ザルだという彼には飲み放題つけさせないと大変だと思った、そんな帰り道だった。
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