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「すみません、でした。
今日の先輩たちの目的は、先輩を想っての飲みだったんですね」
2人きりで飲めると浮かれていた自分が忌めしい。
そして往復ビンタを自分にしてやりたいと心の底から思った。
早乙女先輩も、蝶野先輩も、国司部長も、僕の気持ちを踏み躙るとかじゃなくて、ただ。
“ただ”新城先輩を守ろうとしていただけなのに。
居酒屋の入り口前で、一歩が踏み出せずにいると、早乙女先輩が背中をバシッと強めに殴打した。
「ごめーんて!簡単に新城ちゃんに近寄らせてあげなーいと思って意地悪しちゃったけど、意外と本気なカンジ??
あのHカップ目的じゃない??」
顎に手を擦りあてながら、まるで親父のような渋い顔をして眉間に皺を寄せて言う。
「Hカップはとても魅力的ですが、先輩の魅力はもっと大きくて、芯があるんです。
僕はただ、、、」
言葉を詰まらせ、ギュッと唇を噛んだ。
早乙女先輩たちからしてみたら、僕は何も出来ない新人。
国司部長がイラつくのも納得する。
何も知らない新人が新城先輩にちょっかい出してるの見たら、そりゃ腹立つよな。
社内恋愛禁止の中で、国司部長はきっと少しずつ距離を縮めていたのだろう。
それなのに、僕は安易に近寄って、先輩の立場を危うくさせていた。
積極的に攻めるだけじゃいけない恋愛は初めてで、自分の恋愛観が子供のままだったことに気がついた。
周りをしっかり見て行動していこう。
盲目になってちゃだめだ。
自分の行動に責任持って、真摯に向き合おう。
それで、社内恋愛禁止を突破してみせる。
早乙女が頷きながら「まだ社会人数ヶ月目なんだからさ、少しずつ形にしていけばいーんだよ」と、親身になって言う彼女の言葉に結構救われた。
そして疑問に思った。
『社内恋愛禁止』は、まるで新城先輩だけに適用されてるように見えた。
高嶺の花だから、きっと注目を浴びるだろうし、社訓を追加した1人だから仕方ないのかもしれない。
けど、まるで先輩が常習犯みたいな言い方が、どうも気に入らなかった。
悪いのは言い寄ってきて、社内に色恋持ち込んだ奴らのせいなのに、なんで先輩が尻拭いさせられてるんだろう。
新城先輩の同期との飲みニケーションは、毎週水曜日に集まる約束になった。
この日から国司部長との闘いが始まるゴングが鳴っていたのだろう。
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