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先に入店していた先輩たちは座敷のある小上がりすささにいた。
仕事帰りに寄ったサラリーマンたちの座るテーブル席を抜けて、早乙女先輩と共に向かう。
新城先輩は角の通路側に座っていて、その隣に国司部長が陣取っていた。
しまった。
先輩の隣は当然、僕が座れると思っていて油断した。
てか、普通上座に座るんじゃないの?
企画部の方が年齢上だし、役職もあっちが上なのに、なんで通路側?
「遅くなりました。
国司部長、1番奥の席にどうぞ。僕が通路側座るので」
新城先輩の隣に座っていた彼に奥へ勧めたが、国司部長は爽やかな笑みを浮かべて手をヒラヒラ振る。
「いやいや、今コンプラ的にそういうの無くそうって企画部ではなってるんだ。
それに俺は気を遣われるより気を遣いたいタイプだから、君は大人しく先輩たちの世話をされてるといいよ。
あ、あくまでも俺たちの間ではだから、他所では今まで通りでね」
とりあえず先に酒頼むから、好きな酒選びなとメニュー表を手渡された。
1番最初は「生ビール」じゃないということか。
僕は1番年下なのに上座に座れと?
新城先輩の対面席である上座。
対面できるけれど、真隣に座っている国司部長が隣ってことがモヤモヤした。
隣が良かった。
「あら、残念だったね、五木クン」
早乙女先輩がニッタリと白い歯を見せて何故かニヤついている。
この相関図を見て楽しんでいるだろう先輩は、僕の両肩を押して上座へと押してくる。
先程決めたばかりの決意が緩みそうだ。
先輩には変に近寄らない。
噂が立たぬよう、しっかりしようと思うが、周囲にいるサラリーマンたちの笑い声で2人の距離が更に縮まって見えてしまう。
「生ビール頼みますが、他に生欲しい人いませんか?」
上着を脱ぎ、壁にかけられた木製ハンガーにスーツを掛けた。
国司部長と蝶野先輩たちの上着はすでにハンガーにかかっている。
スーツも良いとこのやつなのが見てすぐに分かった。
僕の安物のスーツとは違う。
これが新人と先輩との差ってやつか。
「蝶野は何飲む?」
「生ッス。出来るなら夜の方も生が良いっス」
「はいそこ、セクハラ発言しなーい。クソ発言しなーい。まだお酒も入ってないのに」
りりこ先輩と蝶野先輩が仲良さげにしているのを見て、ちょっと羨ましいと思ってしまう。
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