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早乙女先輩と蝶野先輩は顔を見合わせる。
視線は新城先輩に集まった。
もし、新城先輩が企画部へ行くとなると、僕の教育係は担当が変わることになる。
国司良太。
僕、この人嫌いかもしれない。
3杯目の緑茶ハイをくぴくぴとマイペースに口付けて、グラスを机上に置いた新城先輩の顔が赤く色付いていた。
「やり甲斐のありそうな企画ですね」
「だろう?
この企画が上手くいけば、商店街のイメージアップに繋がる店舗が立ち上げれることになるし、成功したら君の手柄になる。やること山積みだらけだけど、地域との一体感を」
「でもお断り致します」
受け入れるような気がしてた返答は、あっさりと断った。
大出世のチャンスだった。
先輩のやる企画を見てみたいとも思っていた。
新城先輩は隣に座る部長を見つめて、口を開いた。
「酒の席で言う話ではないでしょうし、私は今の部署でのやり甲斐を感じていますから。
今は、五木さんの教育をしっかり見守り育てることに集中したいので、申し訳ありませんが」
パチっとエメラルド色の瞳と合った。
先輩のトロンとした瞳は、もう酔い始めているというのに、しっかりと断ってくれた。
僕の教育係をしたいと言ってくれたことが、素直に嬉しかった。
断られるとは思っていたのか、国司部長はあっさりと「やっぱり断られたかー」と笑っていた。
でもきっと、内心は落ち込んでいるのだろう。
さっきより少し元気がないように見える。
「憂里は責任感あるから、きっと五木クンを育て終えるまでやらないとは言うだろうなと思ってたよ」
少しベタつくテーブルの上に肘をおいて、頬杖をついた彼が先輩を覗くように見つめて言う。
「そういうところ、昔から変わらないから安心した」
イケメン過ぎて、2人が並ぶ姿が似合い過ぎてて。
どこか自分の入る隙がないような気になった。
「先輩!」
負けたくない。そんな気持ちが入った声はサラリーマンたちの笑い声に負けない声だった。
驚いたように並んだ2人がこちらを向く。
2人には2人しかしらない過去があるように、僕には僕と先輩の間にしかない信頼関係がある。
「先輩は、僕を出世させると言ってましたから。最後まで引き上げていってください。
なんなら、企画部まで一緒に連れて行ってください!!」
国司部長の思惑になんかに負けてたまるか。
そんな意気込みを言葉に乗せると、国司部長は口元を緩めて笑った。
「あはっ、凄い前のめりで。
そういうやる気ある奴、嫌いじゃないなぁ。
頑張ってね」
どこからかくる余裕さを醸し出しながら笑う部長。
僕と国司部長でしか分からない火花を散らした。
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