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「え、五木くん?
さっき見た時の髪型と違うねー!可愛い〜♡」
オフィスの戸口付近で女子社員たちが何やら騒がしい。
でも今は仕事中。
よそ見なんてしていたら、グロッキーな同僚らに「余裕あるならコレやって」と仕事を押し付けられそうなので、あくまでも忙しいと演出する。
液晶画面に向かい合い、ブルーライト対策のメガネをかけてひたすらに書類を作っていると、左隣のデスクにキャスターのついたオレンジ色の椅子に五木さんが戻って来た。
「先輩、どうですか?」
コソッと小声で呟く彼の低くも甘い声にどきりと心臓が跳ねた。
耳元で囁くから、耳朶に吐息がかかった。
「おかえり」
表情には出さずに、ポーカーフェイスで対応出来た私はグッジョブ。
心臓はバクバクとしている。
それもこれもこの子がイツキ君だと知ったせいだ。
いや、待て。イツキ君だと思ってきたけど、その前に何か大事なことを忘れているような。
目の前にいる彼は、先週出されたAhan-aan♡(なんちゅーネーミングセンス)の雑誌に取り上げられた菅谷 幸樹にソックリだった。
髪質も骨格も菅谷幸樹に似ていたから、ふわふわの毛先を遊ばせた大人の男を演出したものをちょっとやってみたいと思っていた。
それを再現してくれるとか、イツキ君は神。
いや、推しは神です。
「どうです?」
ニコニコと屈託のない笑顔で言われる。
私には出来ない小技が散りばめられているのが見てわかる。
指先が器用なんだなぁ。
「似合ってる。大人っぽくなったね。イツキ、、さんは童顔だから前髪あげると印象が変わるね」
あっぶな。危うくイツキ君呼びするところだった。
内心バレやしないかと変な自意識過剰がでて心臓がバックバクと音を立てている。
だ、だめだ。
エロ配信者がそばにいると嫌でも『マスターベーション』をしているイツキ君、いやイツキ様が脳裏を埋めて行くぅぅっっ。
『あぁっ、先輩っ、そんな激しくされたら、射精ちゃうから、、ああっあっ』
「あー、先輩ほんとにそう思ってますか?しっかりこっち見て言ってくださいよー」
「無理」
「えぇ?」
だって、脳内がイツキ様の喘ぎ声でいっぱいなんだもん。
もう、鼻血が出そうで。
「せ、先輩?!鼻血!鼻血出てます!!」
「へ?」
結論。
イツキ君がそばにいると仕事にならない。
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