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「あの話?なんのこと?」
キョトンとして、赤らんだ彼女の目はくりんとした。
素の先輩が見えた気がして、ドキッとする。
「企画部に来ないかっていう話です」
言葉に出して自分が傷付いた。
断ってくれたのに、まだ不安が残る。
先輩は思い出したように「興味ない」と言い切った。
「私は貴方のお姉さんと約束したもの。
五木さんは細やかな気遣いができるし、人のことへの配慮が出来る。人をよく見ている証拠よ。
コミュニケーション能力もあるし、色んな部署との連携も取れてる。
これは企画部に欲しい人材。
アイディアを生み出す力をつけて、貴方を即戦力になる人材にするのが私の課題。
だから、企画部には行かない」
「え、本気だったんですか?!」
「嘘なんかついて何の得がえられるの?」
ふんすと腰に両手を当て、頬を膨らませる先輩が酔っていることを思い出して、思わず口元がにやけてしまう。
可愛すぎなんだがっ。
「でも、僕ミスばっかで、他部署にも迷惑かけてますし」
「新人なんだからミスなんてして当然でしょう。
次から気をつけて活かせばいい。
上から怒られるのは私が引き受けるから、どんどん挑戦していかなきゃ上は目指せない。
糧にできるかどうかは、貴方次第よ」
「先輩、、、」
この華奢な体で、どうしてそんな逞しくいられるのだろう。
なんて正義感の強く、欲望深いことか。
僕はすぐ諦めてしまうし、自分の気持ちから背けやすい。
でも、こんなに自分を期待してくれている。
それがこんなにも嬉しくて、何でも出来るような気がしてくるのは、やっぱり先輩の力だ。
カッコイイ。
やっぱり、先輩について行きたい。
好きな人ってだけじゃない、新城 憂里という人間性に僕は惹かれている。
「ありがとうございます」
嬉しくて、抱きしめたいこの手を堪えながら僕はありったけの気持ちを込めてそう言った。
「あ、2人ともトイレ長すぎ!!
舟盛りきたから早く食べよー」
早乙女先輩に腕を引かれ、結局終電になるまで飲み明かした。
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