先輩の好きな人と後輩の好きな人

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先輩の好きな人と後輩の好きな人

「先輩、最近鼻血出すこと多くなりましたけど、大丈夫ですか?病院行った方がいいですよ?」 「大丈夫。もう慣れた(?)から」 五木さんがイツキ君だと知ったあのパール付きTバック事件から、早くも1週間が経った。 会社で1日1〜2回鼻血を出すようになり、周囲からは心配される声が出ている始末である。 スフェーン色の瞳が心配そうに、会社のエレベーターを共に降りて帰路につこうとしていた。 髪の毛を纏め上げたシニヨンヘアにバレッタで留められているのだが、不器用だから毎朝同じ髪型にしか出来ない。 たまに部長が「他の女社員はいろんなアレンジするのに、高嶺の花(新城くん)は変わらないな」とセクハラまがいな発言をしてきた。 私だって出来るなら毎日違うオシャレな髪型にしたい。 だけど、それが出来ないからこれなんだ!! 余計なお世話である。 ウチの会社は清潔感さえあれば髪型は自由で、服装もとやかく言われることはない。 「先輩、今日自宅まで送りますよ」 「え、どうして?」 「だ、だってほら?最近痴漢が多いとか言うし、先輩は綺麗ですし、巨乳ですし、狙われやすそうというか」 少し動揺しながら五木さんがにこっと笑って誤魔化す。 思わずため息が溢れた。 「えぇそうね。もう毎日痴漢に遭ってるから慣れたわよ」 「ふぁっ?!!!毎日、え?!!今朝も?!」 なんてことないようにいえば、五木さんは瞳に怒りを滲ませて眉根を吊り上げた。 「何平然としてるんですか!!女の子なんですから、もっと他人を頼ってください!!」 あまりの剣幕に内心びっくりしたが、会社専用のポーカーフェイスは今日も在中だ。 「もう幼い頃からされてきて。ジッとしてれば終わるから。それに、毎日通勤するから防ぎようもないでしょ?私が乗る車両はいつも満員だし、女性専用車乗れないし、誰かに頼るっても毎日だから」 「そんな、慣れることじゃないのに、、、」 他の人に話して心配されることはあっても、五木さんのように憤慨する人は珍しく感じた。 大体の人は『新城さんだから仕方ない』と言われる。 そう、仕方ないことなのだ。 この見た目とこの大きな胸のせい。 服装を変えても無駄だったし、空いてる車両に乗ってもストーカーのように追いかけてくる人もいた。 なんなら空いてる車両に乗っている時の方が危なかったこともある。 それなら、満員電車でお尻を触られるくらい。 「じゃあ明日から送迎しますから、電車乗る時は連絡してください」 「え?」 「てことで先輩のスマホ借りますね」 「ちょ」 ささっと慣れた手つきで、アプリで連絡先の交換を済ませた私のスマホを鞄の中へ入れられた。 「先輩いつも何時の電車なんですか?」 「いつも8:00ので」 「じゃあ駅で待ってますから、明日連絡するんで無視とかしないでくださいね」 「本当に来るの?」 「俺をその辺にいる男と同じにしないで下さいよ。約束ですからね!」 「はぁ」 気の抜けた返事を2階フロントでやり取りをしていた。 気がついたらエレベーターを降りて、気がついたら五木さんと連絡先を交換していた。 目の前に大きな背中が立っていて、気を使わせないようにエスカレーターを先に降りてくれていたことに、今更気がついた。 そういえば、五木さんの連絡先知らなかったんだ。 他の社員(女性社員&部長限定)はごく僅かしか登録してなかったもんね。
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