先輩の好きな人と後輩の好きな人

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「先輩の彼氏ってどんな人なんですか?」 五木さんが朝と夜の送迎をするようになって1週間が過ぎた。 ほんと、毎日同じことを繰り返すとあっという間に時が流れていく。 五木さんは飽きもせずに私の送迎をしてくれていた。 会社に向かう途中の満員電車で、かなりの至近距離で、彼は私におかしなことを言った。 「え?」 車内のドア付近の角に寄せられて、目の前には推しのイツキきゅん♡の胸板が。 だめ、また鼻血出ちゃう。 キリッと彼を見上げると、覆い被さるように、私の体が押し潰されまいと壁に手をついて揺れに耐えている顔が目に入って、思考が停止した。 かっ、、、顔が近いっっ!!!! 「ほら、先輩が最近よく鼻血出すようになってからたまに大きいTシャツが出てくるじゃないですか。男物だったんでつい、、、」 まっすぐに見つめてくるスフェーンの瞳がぐらぐら揺れているのに、私を離さまいと見つめてくる。 LLのTシャツのこと?? 五木さんがイツキ君と混同するようになり(つまり鼻血が出る)最近ではTシャツを持ち歩くようになった。 線が細く華奢なのだが、胸に合わせるとどうしても大きめのを買ってしまう癖がある。 最近はシルエットがゆるくなっているデザインらしく、LLサイズだと逆に谷間が見えすぎて困ってしまうことに気がついた。 でもLサイズだとピッタリしすぎちゃうんだよなぁ。 「彼氏なんているわけないでしょ。 胸がキツくならないように、敢えてメンズ服を買ってて。あと、一人暮らしだから、わざと男物の服買って干しておくの」 「あ、あぁ、本当不憫ですね」 「理解してくれて何より」 女の一人暮らしは何かと大変である。 変な手紙が届く。 (例)下着新調したんだね♡今夜家に行くね♡ ※誰↑ ゴミステーションに出した燃えるごみをなぜか私のだけ漁られる。 ※男の痕跡が無いかと調べられている&使用済み生理用品があるのかどうかもらしい(探偵曰く)。 時々深夜に響くインターホンに怯える。 ※防犯カメラでは何も映っていない。 「ということがあって」 「いや、淡々と何恐怖体験語ってるんですか?!あと最後のやつ絶対ヤバいやつ!!心霊的な意味で!!」 「でも慣れたよ?」 「どんだけ肝が座ってるんですかっ。慣れるものじゃ無いって言ってるのに」 「もう1人暮らしして9年になるからね」 ふふっと笑うと、五木くんはまた少し泣きそうな、でも怒ったような顔していた。 「先輩」 「?」 とすんと肩に彼の頭が乗せられ、ドキッとする。 ホワイトムスクの香り。 あ、これ、『イツキ君』の配信動画の間に見る広告に載ってるやつだ。 『好きな人を惑わせる、男女関係ない魅惑的な香りであの人もイチコロ』というキャッチコピー。 「もう、限界です」 はぁっと意味深に息をあげて、私の首筋に彼の唇が触れ ポチッ。 「車掌さん車掌さん!!僕の後ろに痴漢野郎が3人もいます!!股間もお尻も弄られて、なんなら×××をケツにぶっかけられてるんですが?!!!」 私のすぐ後ろにSOSの緊急ボタンを押した五木さんは、酷くご立腹のようだった。 次の駅に着いたあと、警察官と駅員が待ち受けていて、五木さんがその3人を引っ張って連れて行った。 「ごめんね、五木さん。私のせいで」 シュンと肩を下げ、交番前で事情聴取を受け終えた時にはすでに2時間が経っていた。 「いや、本当、先輩のエロス凄すぎです」 これを俗に言うゴキ○リホイホイって言うんですかねと疲れ切った顔をしている。 「でも、五木さんがいなかったら」 「わぁ!!考えただけでもゾッとする!! 僕がいなかったら毎日あんな野郎どもにアレコレされてると思うと!!!」 「うん、だから、助かってる。ありがとう、五木さん」 私の代わりに、男たちに翻弄されているのを思い出して、思わず笑ってしまう。 五木さんはただ調子が狂ったように唇を尖らせた。 「早く、、、彼氏作った方が良いですよ」 「え?」 聞き取れなくて聞き返すと、五木さんは首を横に振った。 「僕のスーツとんでもないことになってるから近くのウニクロで買って来ても良いですか?」 本当はスーツ捨てたいですと嘆く彼を可哀想に思った。 私のために捨て身になって(※なってしまう)る彼に、スーツを買ってあげようと思った。 あ、ウニクロのね(この前のボーナスはおばあちゃんの治療費と入院費と貯金で消えてしまった)。
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