第3話 ルカ

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第3話 ルカ

地獄の様な世界となった国、ジャポルにある男を探して、一人で旅をしている女性がいた。 f80eb411-2030-4a8d-8f7c-00621c0c9b39 その女性の名はルカ。 彼女は産まれつき金髪で、瞳は青く、透き通る様な白い肌をしている。そして、首に小さなL字型のアザがある。それが、いつからあった物なのかは不明。そのアザは、小さいとはいえ、ルカの白い肌にはかなり目立つ物。彼女は特に気にはしていないが。 ルカは今、戦争で破壊され、崩れかけたビルの中で眠っている。夢を見ていた。 その夢は、自分が死んでベッドに横たわり、その傍らで小さな女の子が、泣いているというもの。 ルカはある事件がきっかけで、戦争以前のほとんどの記憶を失くしている。 戦争で、大勢の人が死んでいくのを、目の当たりにしたショックからなのだろうか。その原因は、彼女自身にも分からない。 自分の名前と両親の事、ある人物の事くらいしか覚えていない。自分に子供がいたのか、そんな大切な事も、彼女には記憶が無かった。 a8d2774a-b113-4fe5-a9f2-be007819c5a1 「また、くだらない夢を見た……」 ルカは目を覚まし、立ち上がってゆっくりと歩き出す。 d4362fde-50f4-4e93-ac55-fc7b3fecf6f0 砂漠と化した、荒野の中をあてもなく、ひたすら歩き続ける。 「奴はどこだ……。一体どこにいる……」ある男を探し求めて。ルカはその男に会って何を、するつもりなのか。 しばらく歩いていると、バイクに乗った集団が砂埃を上げ、円を描きながら走っているのを目撃する。 幼い兄弟の周りを取り囲み、怖がらせながら、楽しそうにバイクを走らせている。 ac4f5de9-6024-4f5f-ad2f-e8f9b096bdc0 「うわぁぁぁぁーん、こっ…、怖いよぉぉっ!!」 「誰かっ、誰か助けてぇぇぇっ!!!」 兄弟は泣きながら、抱き合っていた。二人は恐怖で怯え、動けない様子。 8a5cc566-a077-4fad-8add-1606f0ef0ced 「………………………」 ルカは、その横を素通りしようとしたが、一人の男が声を上げる。 「おいっ!!皆、見ろよっ!女だっ! 女がいるぞっ!しかも、可愛いじゃねぇかっ!」 集団はルカの周りを囲み、逃げられない様にバイクを停めた。 432cfe5b-a840-42bd-9440-ab4fac2d47a6 「なぁ、姉ちゃんよ、俺達と遊ばねぇか?一緒に来れば、毎日楽しいぜっ!食い物も、水も沢山あるっ!!あんた綺麗な顔してるから、可愛がってやるよっ!」 「俺達は、この辺り一帯を支配しているんだ。ラッキーだな、姉ちゃんっ!!俺の目に留まっ……」 男がルカに近づき、肩に手を置こうとしたその時、男は口から泡を吹き倒れる。意識を失った様だ。 「なっ、なんだっ!どうした?おいっ、お前っ!なっ、何があったんだっ!しっかりしろっ!!」 周りにいた数人の男達は、慌てふためいている。 倒れた男の側にいた仲間の一人は、慌てて駆け寄り声をかけるが、返事はない。 「おい、一体何をしやがったっ!?ふざけんなよっ!!女だからって容赦しないぞっ!!」 他の男がナイフを取り出し、ルカに向かって来ようとする。 1f0a7a10-5cb7-4d87-b5b2-72686024e0dc 「こいつみたいになりたくなかったら、さっさと消えな。アタシはお前らと遊んでやる程、暇じゃないんだ」 次の瞬間、ルカは男のみぞおち目掛けて、拳を叩き込む。すると、男は白目を剥き崩れ落ちた。 「くそっ、こいつ強いぞっ!!皆で一斉にかかるんだっ!!」 一人の男が叫び 「おいっ、おめぇら!やっちまおうぜっ!」 「よっしゃぁぁぁっ!ぶっ殺してやるぜぇっ!!」 「くたばれぇぇぇぇっ!!!!」 四人の男が、四方から一斉に襲いかかって来る。 ce22b96e-dba9-4659-9ce9-7d4a70360234 「死にたいみたいだね………」 ルカは背後から襲いかかってきた男を、背負い投げで正面からきた男にぶつけた。 その衝撃で、二人の男は同時に気を失う。更に、左から襲ってきた男の顔面を殴り倒す。 4696f3c9-985e-4ac7-a6b3-8d0a5007dce7 「ミシミシッ!!!」と男の顔から、骨が砕ける音がする。その男は、言葉を発する事も無く、大量の鼻血を流して気絶した。 「何しやがんだっ!てめぇっ!!!」 右側から襲ってきた男が、ナイフでルカに斬りかかって来るが、ナイフを指で挟んで止めすかさず、男の腹に蹴りを入れた。 ルカの蹴りを食らった男は、数メートルふっ飛んで気絶。 一瞬の出来事だった。全員気絶しただけで、死んではいない様だ。 「なっ……、なんなんだ、この女はっ………」 残りの男達は怯えて動かない。 ルカは何も言わず、残りの男達を睨みつける。 「あんた達も、同じ様にしてやろうか。」 ルカは今にも消えそうな声で、男達に詰め寄る。 その表情は一切、変わらない。無表情のまま。 「こいつっ!なんかおかしいぞっ……、ヤバい……、逃げろぉぉぉっ!!」 男達は、ルカにやられた者を置き去りにして、逃げて行った。 「助けてくれてありがとう、お姉ちゃんっ!」 ルカに、助けられた兄弟が礼を言おうと、近寄ってくるが、ルカは声をかける事もなく、再び歩き出す。 「あっ、あの……、せめて、お名前だけでも……」 その時、ルカは突然胸を押さえて苦しみ始める。 「うっ……、うぅぅぅ………。はぁ、はぁっ………」 「おっ……、お前ら……、しっ……、死にたくなかったら……、さっさとアタシの前から…、きっ…消えろっ………」 「お姉ちゃん……、だっ、大丈夫……?顔色が悪いよ……、苦しそうだけど……」 2dba8b7b-4eda-485b-bdf1-94c80b3adb78 「うるさいっ!!!!さっさと消えろっ!!」 「アタシの言ってる事が分からないのかっ!!」 二人を怒鳴りつけ、しゃがみ込んでしまった。 「あっ、ありがとうございました………」 怒鳴られた兄弟は、仕方なくその場を離れる。 「はぁっ…、はぁっ、はぁっ…」 「うぅぅっ………」 ルカは激しく息を切らせながらも、立ち上がり再び歩き始めた。 「はぁっ…、はぁっ…、はぁっ…………」 そして、荒野の中に消えて行く。
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