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ひたすら荒野を歩いていたルカは、野盗がのさばるナンハンという村に入る。そこでは、野盗達によって様々な、残虐行為が行われている。人が人に対して。女、子供、関係なく。老人も子供も関係なく。まるで、家畜のように扱われていた。
そんな光景を見ても、ルカには怒りや悲しみの感情は湧かない。呆れの感情しかない。
首をノコギリで切られる者や、ナイフダーツの的にされ、頭を刺される者。残虐行為をしている者は、皆、楽しそうに笑ってる。人は笑いながら人を傷つける事ができる。
そんな悲惨な光景を目の当たりにしながら、ルカは村の中を歩いていた。この村は、とても血生臭い。
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「地獄があるとすれば、こんな感じなんだろうな」
考え事をしていたその時、野盗の一人と肩がぶつかってしまう。しかし、ルカは気にせず、歩き続けようとした。
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「おい、姉ちゃんよっ!あんた、人にぶつかっといてスルーかよ!それはねぇだろっ!ごめんなさいの一言くらい言えねぇのかよっ!!」
肩がぶつかった男が絡んできた。
「おっ!お前、よく見たら、なかなかいい女じゃねぇかっ!ちょっと来いよっ!」
ルカは六人の野盗に腕を掴まれ、人気のない路地裏に連れて行かれる。屈強な男達に、囲まれながらも、ルカは眉一つ動かさず無表情のまま。
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そんなルカを見て、男達はつまらなそうだ。
「なぁ、姉ちゃんよっ!!何なんだ?その態度はっ!!もっとビビれよっ!!!!助けてって叫べやっ!!!ほら、泣けっ!わめけよっ!!」
男はルカを怖がらせ様と胸ぐらを掴む。それでも表情は変わらない。ルカはその男の手首を掴んで、骨を握り潰した。
「うぎゃぁぁぁっ!骨がっ骨が砕けたぁぁぁっ!しっ、しかも何だこいつっ!!!手が異様に冷たいっ!!」
「おいっ、女ぁぁぁっ!てめぇ、やろうってのか!あぁんっ!!!」
別の男がルカの服を掴んできた。仲間が骨を砕かれたのを見ても、ルカと戦おうとする。
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ルカはその男を、右手で軽く突き飛ばす。
男はゴミ溜まりに突っ込んで、意識を失いかけた。
雄叫びを上げながら、更に別の男が殴りかかってくる。
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ルカは呆れた表情で拳を受け止め、骨が砕ける寸前で手を離し、男の腹に蹴りを入れる。腹を蹴られた男は建物の壁にぶつかり、腹を押さえてうずくまった。腹を蹴られ息が、出来なくなった様だ。
残り三人の男も、襲いかかってきた。
これだけ実力の差を見せつけられながらも、素手で殴りかかってきた。何も武器を持っていないのだろう。
ルカはかかってきた男の顔面を殴って、一撃で気絶させた。
「てめぇ!!!いい加減にしやがれぇぇ!!!」
更にもう一人が、殴りかかってくる。
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ルカはその男の拳をかわし、すぐにみぞおちに強烈な拳を入れた。殴られた男は泡を吹いて、その場に倒れる。
「「「「ひっ、ひぃぃぃぃぃ………」」」
「「なっ……、なんなんだこいつっ………」」
それを見ていた残りの一人は怯えて動かない。
さすがにルカの異様な強さが分かった様だ。足が震えている。男は完全に戦意を失った。
「「「うわぁぁぁ、化け物だぁぁぁっ!!!」」
「「逃げろっ!!逃げろぉぉぉぉぉっ!!!!」」
男達は走り去って行く。
そう、ルカは殺人生物怨魔。
普通の怨魔は猛獣の様な姿をしており、人間を見ると必ず殺す。問答無用でそして殺した後は、腹を満たす為にその人間を喰らう。
怨魔は理性を持たず、人を殺したい、喰らいたいという欲だけで生きている。しかし、ルカは同じ怨魔にも関わらず、何故か人の姿をしており、理性と知性を持っている。
怨魔になるとそれまでの記憶が失くなる。それはルカも同じで、怨魔になってしまった影響で、ほとんどの記憶を失くしていた。
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「うっ、うぅぅぅ……、うぅぅぅっ……」
「はぁ、はぁっ……、はぁ、はぁっ………」
ルカは胸を押さえて苦しみ始めた。そのままうずくまり気を失ってしまう。
ルカは怨魔としての殺人欲を、無理矢理に理性で押さえている為、人間と戦うと発作を起こす事がある。
ルカは元々、人間だったが、ある人物によって怨魔にされてしまう。ルカ自身、昔は人間だったのか、産まれつき怨魔だったのかという事も、記憶が定かではない。
戦争が起こる前、製薬会社に勤めていたルカは「仕事に行きたくないな……、人間は悪魔だ……。こんな世界なくなってしまえばいいのに。人間なんて滅んだ方がいい……。誰か私を殺してくれないかなぁ」と毎日の様に考えていた。
ルカは人間の時、暗い性格で自分の意見をはっきり言えないという事もあり、子供の頃から激しいいじめを受けて育った。大人になり、社会人として働く様になってからも、人より少し頭が良かった事を上司から妬まれパワハラを受ける。
頼まれた仕事を断る事が出来ず、全てを自らが抱え込む。彼女は産まれてからずっと、いじめに合ってきたのだ。
その生い立ちから、彼女は人を信じ、愛するという事が出来ない様になってしまう。ルカは他人との関わりを可能な限り、避けながら生きてきた。
両親に相談しようにも、父親はとても厳格な人で、
嫌な事や辛い事から逃げるのを許さない人だった。
母も同じで、ルカは両親から厳しく育てられた。
ルカはそんな両親を、嫌いという訳ではなかったが、相談しても逃げる事を許してくれないのは分かっている。仕事を辞めたいと相談しても否定される事、また否定される事で、自分が両親を嫌いになってしまうのが嫌で相談しなかった。
どんなに辛くても、一人で抱え込んだ。
両親に心配をかけたくないという思いもあった。
他の社員が楽しそうに昼食を取る中、ルカは一人、トイレで過ごす。
「明日、大地震でも起らないかなぁ………。戦争でも起きて皆死んでしまえばいいのに……」
そう考えていた矢先、戦争が起こり世界は変わってしまった。
ある意味、彼女の思い描いた世界となる。自分は怨魔となり、死ぬ事は難しい体になってしまったが。
「うっ………、うぅぅぅっ………」
「はぁ、はぁっ……、はぁっはぁ………」
ルカはしばらく気を失っていたが意識を取り戻し、その場を離れて村を歩き出した。
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「奴はっ………、奴はこの村にもいないのか……。一体、どこにいるんだ」
村人の顔を確認しながら、ひたすら歩いている。
ずっと誰かを探している様だ。
その頃、ルカにやられた六人の野盗はアジトに逃げ帰っていた。
「ばっ、化け物だっ!体温が無い、化け物女が出た………」
ボスにルカの事を報告している。
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野盗達のボスは、マアセという男。
身長190cmはあろうかという大柄な体格。
非常に残忍で自分より立場の弱い者に強い、卑怯な性格をしている。マアセは弱い怨魔を捕らえて、焼き殺すという遊びに快楽を覚えた人物。
「その強さと、体温が低いってぇのは、怨魔の特徴だっ」マアセは不敵な笑みを浮かべる。
「けど、そいつは人間の……、女の姿をしてた。怨魔は獣の様な姿をしてるじゃないかっ!」
「そいつは人型の怨魔だっ!おもしれえじゃねぇか!俺は噂で聞いた事がある、怨魔の中でも人間の姿をし、知性を持った怨魔がいると。本当に存在していたとはな……」
「そんな奴、本当にいるのか……?しっ……信じられねえ……、俺は聞いた事がなかった」
部下達は顔を見合せて驚いている。
「あぁ、いるんだよっ!普通の怨魔は必ず人を殺して喰らうという習性があるはず……」
マアセは部下達が殺されずに戻って来た事から、珍しく理性と知性を持った怨魔、ルカに興味を示した。
「お前ら、その女怨魔を捕まえて来いっ!出来なかったらてめぇらを 半殺しにするからなっ!必ず生け捕りにしろっ!」
「しっかり武器を持って行け!火気を持っていくのを忘れるなよ、怨魔は炎にビビるからな」
マアセはルカを捕らえて、連れてくるよう六人に命じた。マアセは怨魔の生態に、多少の知識があった。
怨魔は炎に弱いという事も知っている。
怨魔に対して人を殺して喰らう事しか頭にない下等な生き物という考えを持っている。自分の方がよっぽど下等な生き物だが。
「珍しい人型の怨魔っ!しかも女っ!必ずそいつを捕らえて見せ物にしてやるっ!見物料をとればがっぽりと儲かるぜっ!」マアセは笑みを浮かべる。
ルカに危機が迫っていた。
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