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第60話 真剣勝負
「つまらん猿芝居は止めろ。早く立てっ!俺は倒れている者にとどめを刺すのは好きじゃない。こんなもんで怨魔であるお前が死ぬ訳ないだろう」
「フッ!フフフフッ!」
ジャバラは、不気味な笑みを浮かべながら、切り落とされた首を持ち上げ体に戻した。
「俺の名はハヤテだ。お前は?」
「私はジャバラだ」
「貴様、どこで剣術を覚えたのかは知らんが、出来るな。余程、良い師匠に恵まれたのだろう。それに人間にしては礼儀もある。好感が持てるぞ」
「ジャバニャンか。覚えておく」
「ジャバニャンではないっ!ジャバラだっ!」
ハヤテはわざと名前を間違えた訳ではなかった。決して相手に、嫌な思いをさせたり、挑発しているのではない。
彼は一見、冷静で真面目な印象を受けるのだが、少し天然なところがある。
ハヤテは、名前を間違えた事を少し反省している。しかし、気持ちを持ち直し刀を構えた。
「いくぞっ!小僧っ!一瞬で貴様の体をバラバラにしてくれるわぁぁぁぁっ!!」
ハヤテはジャバラの動きを完全に見切っている。素早い動きで正面突きを左にかわし、ジャバラの体を切断しようと刀を横に振った。
しかしジャバラは、これをしゃがんでかわし、すぐに下からハヤテの顎を目掛けて突きを放つ。
ハヤテは動じる事なく、少し後ろに体を反らし、突きをかわして刀を振り上げる。
ハヤテの攻撃はジャバラの体を縦に切り裂いた。ジャバラは、よろめきながら後ろに下がる。
ジャバラはすぐに切り裂かれた体を回復させ、ハヤテの顔を狙い、再び左手の剣で正面突きを放った。
ハヤテは首を左に傾けて突きをかわし、ジャバラの腹を切り裂いた。
しかし、ジャバラは怯む事なくハヤテの心臓を狙い突きを放つ。ハヤテはいとも簡単にこれをかわし、ジャバラの腹を斬る。腹から、大量に出血したまらず腹を押さえ、その場に倒れ込んだ。
ジャバラの連続攻撃は全て空振り。ハヤテにかすり傷一つ負わせる事が出来ない。
「ハヤテの奴、あんなに強かったのか……。アタシと戦った時よりも、はるかに速い!ジャバニャンは、ハヤテの動きに全くついていけてないね」
「あぁ。しかも、まだ二本目の刀を使っていない。本気を出してないはずだ……。それでもあの強さ。怨魔以上の化け物だな」
「はぁ、はぁ、はぁ……。貴様、本当にやるではないか。私が怨魔でなければとっくに殺されていた。この私をここまで追い詰めるとは……」
「お前、本気を出すと言っておきながら、その程度の実力なのか?時間をやる。殺されたくなかったら、さっさと怨魔になれ。実力を出しきる前に殺されるのは悔いが残るだろう」
「貴様、完全に私を舐めているな!いいだろう!ならば見せてやる。私の本当の力をなっ!」
「そうした方がいい。まさか、ジャバ夫の本気がこの程度かと思って、がっかりしていたところだ」
「ジャバ夫……。まだ、ジャバニャンの方がましだったではないかっ!段々、遠ざかっているぞ!お前っ!人に名前を聞いておいて、忘れるんだったら、もう二度と聞くなっ!」
ジャバラから説教されたハヤテは、結構なショックを受けた。
ハヤテは師匠のコウガから「対戦する相手には、常に敬意を払わなければならない。例えそれが怨魔であっても、どんな相手に対しても失礼の無い様にしなければならない」と教えられていた。
ハヤテは名前を二度も間違えた上、ジャバラの実力の無さにがっかりだと、発言してしまった事を悔やんだ。
ハヤテはたまに師匠の教えを忘れてしまう。ルカに対しても「本当にその華奢な体で強いのか?」と言った様に。悪気は無い。うっかり忘れてしまうのだ。
「なっ、名前を間違えてすまない……。お前が凄く弱いのをバカにした事も謝る」
「あいつ……、真面目か……。今どうでもいいんじゃないか……。しかも、またお前が凄く弱いってバカにしてるし……」
タケル心の声。
「弱い……、弱いだと………」
ジャバラは怒りに満ちた表情で、徐々に怨魔に変化していく。その目は殺意で血走っている。
「すまない……。また、失礼な事を言ってしまった。つい口が滑ってしまったんだ。明らかに修行不足で、実力も無いのに自分は強いと勘違いしている間抜け坊主の間違いだった……」
「それ……、火に油を注ぐっていうやつ……。もう言い訳するの止めなよ……」
「アタシはあいつの事を、冷静で真面目だと思ってたけど、もしかして馬鹿なのかもしれない。アタシはこの先、こいつらと旅をして大丈夫なんだろうか……」
ジャバラは怨魔に変化した。目つきが鋭くなり、緑色の皮膚に変化。腕が六本になっており、全ての手先が鋭い刃になっている。
「本気を出させてもらうぞっ!!人をこけにしおってっ!!!相手に敬意を払う事を知らん小僧がっ!貴様は万死に値する!八つ裂きにしても飽きたらん!」
「敬意を払う事を知らない………」
ハヤテはかなり強いショックを受けた。がっかりしてうつむいている。
「殺してやるっ!殺してやるぞ!クソガキがぁぁぁぁっ!!」
ジャバラは名前を間違われ、弱いと言われた事で怒り狂っていた。六本の刃を振り上げ、ハヤテの体をバラバラにしようと迫っているが、ハヤテはうつ向いたまま顔を上げようとしない。
「ハヤテぇぇぇぇッ!!!!ジャスミンが来てるぞっ!顔を上げろっ!!何やってんだ!!!」
タケルの叫ぶ声が響き渡った。
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